最終回。22時から放送で、放送時間の5分ぐらい前になるとリビングのソファにふたり並んで座った。途中ラブシーンが流れてきた。

 ふたりが喧嘩別れしたままお互いに別の仕事で忙しくなりすれ違う。そしてお互いに会いたいと願い、空港で再会したシーン。

「晶哉と離れたくない……もうお前を離さないからな! 覚悟しろ」

 晶哉は無言のまま、俺を包み込むように抱きしめた。気持ちが高ぶりキスしながら抱きあうシーンだ。

 横で一緒に観ている白桃大知の心がちょっと気になる。俺らのラブシーンを観ているけれど、隣にいる俺を意識して恥じる気持ちが今、少しでもあるのだろうか? それともドラマと現実は完全に違うと割り切っているのか。そんな些細なことが気になるのは、相手が白桃大知だからだろう。多分他の人だったら、どうでもいい。

 チラリ横目で、テレビ画面から視線を外さない白桃大知を見る。

 白桃大知は、『やっぱりこのシーンの角度、遥斗くんかっこよく映ってる。自分の角度を微調整して正解だった』と、心で呟き、真剣な表情で画面を観ていた。俺が考えていたような意識はされていないけれど、俺のことを考えている。

 このシーンの角度は俺がよく映るように微調整されていたのか。

 ラストシーンが画面に流れた。ふたりは河川敷で微笑みながら、優しくぎゅっと抱き合った。

『遥斗くん、可愛かったな。抱きしめた感触が忘れられない……』

 そう心の声が聞こえてきて、顔ごと白桃大知の方を向く。うっとりした表情をしている。動揺しつつも画面に視線を戻した。

 いつもは俺のソロ曲がエンディングに流れていたけれど、今回はいつもと違い、ふたりのデビュー曲『恋煩いと願い』のイントロが流れ始める。

 そしてドラマのラストシーンのカット終わりと共に、MVが放送された。


寂しそうにぽつりと咲く花は
僕の心をそっと照らし~

君の心も照らしたいと
君のとなりでそっと寄り添う~♪


 ちなみにMVの映像は、ドラマの映像が主に使われている。流れはドラマの流れに沿ってストーリーが進む。視聴者にとっては、今までの回想シーンを観ている感じだ。そしてハウススタジオで別撮りしたカットが数回、間に挟まれている。

 ふたりで真剣に最後まで映像を観ていた。

「MVもいいけど、この曲は歌詞が特にいいよな」
「あ、ありがとうございます」

 突然白桃大知は照れだした。
 何故照れたのかは、すぐに知る。

『僕の書いた歌詞を褒めてくれた……僕が遥斗くんを想いながら書いた歌詞を』

 と、心の声が聞こえてきたからだ。

「えっ?」

 思わず声をあげてしまった。

「どうしたんですか?」
「あ、いや……」

 作詞したのって〝sirachi〟って人じゃ……。あっ、白桃大知、しらももだいち、しらち……。

 この曲の歌詞は、寂しそうな君に寄り添い、生涯ともに過ごして君を幸せにしたい。世界一好きだ、愛してるという内容の歌詞だった。

 俺を想いながら書いた歌詞……。
 もしかして俺に対して、思っていた以上の好意が?

 他のやつらだったらそんな心の声は無視するけれど、白桃大知だから気になりすぎる。

「これって、リアルな俺を想いながら書いてくれた歌詞だったりする?」

 もう答えは知っているけれど、あらためて訊いてみた。きっとこの質問は、ふたりの間にある境界線を越えた質問だ。

 手で口を押さえ、顔が真っ赤になっていく白桃大知。無言のままトイレに逃げていった。心の言葉とその行動……あきらかに白桃大知は俺のことをファン以上に想ってくれていて、そして歌詞の通りに俺のことを――。

 鏡をみなくても分かる。
 多分俺も、今の白桃大知と同じような表情をしている。

 同じくらいかは分からないけれど、俺も白桃大知に対しては、相方以上の感情を抱いていた。だけどそれは越えてはいけないもので、見せてはいけないもので。

 だけど――。