だけど、それは出来なかった。
誰かに腕を掴まれ、その場から動くことができなかったのだ。パシッという乾いた音が微かに聞こえてきて体が固まる。
「……お前、ここでバイトしてんの?」
「……ひぇっ……!」
そーっと顔を上げてメニューを見ながら私の腕を掴んでいる人物を見る。久しぶりに聞いたその声はなんだか懐かしく感じた。だけどそれと同時に恐怖心が湧き出てきて、言葉が詰まる。
「な、なんのことでしょうか……。あ、あなたには、か、関係ない、ですよね……?」
相手のことは“知っている”から怖くは無いはずなのに、心は正直で。掴まれた腕がプルプルと震えていた。
久しぶりに話せたのに。久しぶりに顔を見たのに。なんで、こんなに怖いんだろう……。
「……まぁ、そうだな。俺には関係ない」
そう言ってパッと腕を離し、メニューを閉じた。その瞬間、顔が上がり目が合う。
ーードキン。



