「おじい様はその場で侍女に、わしを部屋から連れ出すように命じた。わしは怖くて泣いた。すぐに龍憲兄上が駆け寄って抱きしめてくれた。抱き上げて、侍女にわしをたくし、ご自身も部屋に残られた。わしは・・・・侍女達に支えられた母上と一緒に部屋から出された。」
(そりゃあ、そうでしょうね・・・。子供に見せ続けていい者じゃないもの・・・。)
「わしが部屋から出る時に見たのは、落ち着いた様子のおじい様と竜憲兄上と、動揺を隠せない父上と、楽しそうにしている高野槙雄を含めた部落者達と記者達だった。」
(『楽しそう』?)
楽しそうにしている、ですって?
理解した瞬間、カッと頭に血がのぼる。
気づけば叫んでいた。
「異常です!!ホルマリン漬けにした子供を見せるなんて、異常ですよ!!」
「仕返しにしては、効果的な真似するじゃねぇか。感心するねー」
「感心しないで下さい、瑞希お兄ちゃん!仕返しのために、子供を堕胎したのですよ!?小さな命を殺したのですよ!?」
「ばか。嫌味で言ってんだよ!」
「そ、そうでしたか!でも・・・わかりません。ホルマリン漬けにする神経も、記者を連れて来た動機も・・・・・」
「記者を連れて来た動機は簡単だぞ、凛。高野湖亀側の要求をのまなきゃ、ホルマリン漬けの赤ん坊の件をネタに、檜扇家のスキャンダルを記事にするぞって脅しだよ。」
「赤ん坊の遺体を、脅迫の道具に使ったというのですか!?」
「金のためなら何でもする一族ならそうするだろう?そうだろう、鳥恒さん?」
「その通りだ!!部屋から出た時に母上は、高野槙雄が連れていた記者は、大手の新聞社の記者で、面識があるとぼやいていた・・・!!」
(つまり確信犯ってこと!?)
ゾッとした。
鳥恒先生の話に、心の底からゾッとした。
同じ人間で、ここまで残酷なことを出来るなんて、私の常識では考えられなかったから。


