まずは……湊の出方を見よう。
俺は力も弱いし、体も大きくないからって師範が教えてくれた戦い方。
相手の攻撃を避けつつ、瞬時に分析して自分の反撃方法を決める戦い方。
ジリジリと湊が近づいてくる。
後ろに気をつけて、ゆっくりと後ずさりながら湊をじっと見つめた。
……あ、もうそろそろくるな。
そう判断した瞬間、ダンッと湊が床を踏み込んで、一気に距離を詰められそうになる。
こうやって、微妙な仕草から攻撃パターンを判断することも大切。
ビュンッと湊の拳が飛んできて、慌てて避ける。
危な……!今の、師範だったら完全にくらってたよ……!
喝を入れ直して、次々にくる湊の攻撃を避けていく。
「おいはく!手ぇ抜いてたら許さねーぞ!」
湊のお叱りが飛んでくる。
……手を抜いてるつもりはないよ。湊は俺よりも断然強いから。
「そんなことないよ!」
出方を見てるだけ、という言葉を飲み込む。
これ以上なんか言ったら、舐められてるって思われそうだから。
湊を見ると、汗をかいていて、完全に息が上がっている。
「……そろそろ、俺もやろっかな……」
ぼそりとそう呟くと、湊の拳を受け止めた。
パシッといい音が響く。
「おっ!」
間髪入れずに右足を動かして、湊のみぞおちを狙う……フリをして、右手で殴りかかってみる。
手を掴まれそうになるのを避けて、今度は左手を使う。
冷静になれ。何も、殺せって言ってるわけじゃない。……倒せば、いいんだ。
突き出した左手を、わざと掴まれることにした。
「はく、いいのか?」
湊がニヤニヤ笑って言う。
「いいよ」
ニコッと笑ってそう返す。
ぐっと掴まれた左手に力を込められて、転ばされる。
地面に背中をつけるように倒れてしまう。
よく分からない人は、床ドンみたいなシーンを想像して。それが俺の今の状況。
まぁ、湊は俺の手を掴んでいて、床に手をつかないようにしているけれど。
「手をつけさせたら勝ちだよな」
湊が完全に油断した瞬間。
ぐっと湊の服を掴んで、湊を引き寄せる。
「っ、わ!」
湊がバンッと床に手をつく。
俺がニヤリと笑った瞬間。
「そこまで!白露様の勝ち!」
「うわ!」
湊が顔をしかめる。
「湊ごめんね、痛かった?」
「ん、大丈夫。……つか、はく……めちゃくちゃ強いじゃんか!!」
湊の絶叫に、苦笑いをする。
強いと言われても……空手とか護身術を習っていただけのことだし……。
「やば、めっちゃ強い……」
「さすが、白露様だな……」
あぁ……周りの視線が痛い……気まずい……!
そこに、真生さんが近づいてきて。
「白露様、お見事でございました。そこで……こちらを」
「はい?」
差し出されたそれを受け取り、じっと見つめる。
何これスマホ?……あれ、電話になってる?
『もしもし?来栖白露さん?』
「え、あ、はい、来栖白露は俺ですが……何か?」
相手はまだ20代ぐらいの綺麗な声をしていた。
どうやら男性みたい。
『君には捜している兄が2人いると、真生から聞きました』
えっ!
じろりと真生さんを見ると、気まずそうに目を逸らした真生さん。
ちょっと、真生さん……!
『そこで、1つ提案をしたい。……君の力を先程、真生のスマホからLIVEで見ていたのですが……アールアールにとても必要な人材だと判断しましてね。白露さんがアールアールに入ってくれて、仕事をこなしてくれるなら、情報を提供していきます。こちらとしても貴方にとっても、ウィン・ウィンの関係ではないでしょうか?』
っ、え……!それは、めちゃくちゃ魅力的なお話だ……!
「それは、もし兄達がバルーンチャートだった場合、アールアールを抜けることも出来たりしませんか?」
我ながらかなり失礼な質問だけど……仕方ない。
『うーん……まぁ、アールアールを抜ける前にアールアールにそれだけ貢献されるなら、認めます』
それなら……!
「わかりました。……来栖白露を、アールアールに入れてください」
相手がほっとため息をついたような気がした。
『ありがとう……君のような優秀な人材がはいってくれて、アールアール一同歓迎します』
「光栄です。これから、よろしくお願い致します」
周りの方々に、ぺこりと頭を下げる。
よし、これから俺も、正式にアールアールだっ……!
ぐっと拳を握りしめ、気合いを入れた。