ひゅるるるる……どしん!
いったぁ……!おしり打った……!
うわ、真っ暗……。
着地(?)したところにふかふかのクッションが敷いてあったから、あんまり痛くない。
ぐいっと溢れ出た涙を拭って立ち上がる。
よし……。
奥に向かって壁を伝いながら歩く。
幸いにも通路はあまり広くないみたい。
両手を伸ばせば左右に当たるくらいの幅。
ゆっくり慎重に歩いていると。
ん? なんか今手に当たった……?
その直後に、カチッと音がして、俺の頬を何かが掠めた。
ほっぺに手を当てると、液体が指につく。
……なるほどね。
思い切って、ダッと勢いをつけて走り出す。
5秒くらいで壁にたどり着いた。
はぁ、疲れた……。
あれは、簡単なトラップだ。
壁に手をついて歩いていると、無意識に足元に気を取られて、壁に注目できないんだ。
ネックレスを3つ、そっと穴にはめる。
よくよく見ると、少しだけ形が違う……。
徹底されてるんだなぁ……。
最後に俺のネックレスをはめた瞬間。
ゴゴゴゴゴ、と地鳴りのような音が響いて、1つのドアが現れた。
これ……いけんのかな……。
まぁいっか。行こう。
手をかけて、グッと引っ張る。
うわ、眩しっ……!
出たのは外じゃなくて、部屋みたいなつくりの場所。
あ、変装道具……。
色素からして、似ても似つかない真っ赤なウィッグ。
カラコンは薄いピンク色。
気持ち程度に置いてあるピン。
とりあえずウィッグとカラコンを付けて、フィットさせる。
ちょっとだけ乱暴に髪の毛をぐしゃぐしゃっとして、ヤンチャ系な髪型に。
メイクはあえてせずに、まつ毛も逆さまに下げる。
あとは……服かぁ……。
今手元にあるのは、制服と帽子だけ……。
うん、まぁいける!
まずは、ワイシャツの袖をめくってたくし上げます。
そして、ズボンのすその部分を足首が見えるくらいまでまくって上げます。
ワイシャツは、第二ボタンまで空けるのが、やんちゃ度を上げる!……と思ってます。
あとは、仕上げに柑橘系の香水をひとふき。
これでよし!
千秋風、やんちゃ系男子のかんせーい!
鏡を見て再確認したあと、ネックレスをはずしてポケットに入れる。
これは、俺が大事に持っておこう……!
その辺に置いてあったバッグを引っ掴み、色々詰め込む。
日焼け止めに見せかけた催涙スプレー(防犯用!)や、念の為の栄養補助食品。
ペットボトルの水。
スマホを握りしめて、ドアのとってに手を掛ける。
ぐっと引っ張り、外に出た。
外に広がっていたのは……海?
あ、違う。海のペイントがしてあるだけだった。
周りを見ると、路地裏?みたい。
人1人がやっと通れるような狭い路地で、街灯もなくて暗い。
夜に1人で歩いたら、補導されるか襲われるかのどっちかになるだろうな……。
幸いにもまだ午前9時すぎ。
一応持ってきたマスクを付けて、明るい方に歩く。
なんとか路地を抜け出ると、蒼太兄の家からあまり遠くない公園に出た。
ここにこんな路地裏があったとは……。
自分の記憶を頼りに、てくてくと蒼太兄の家に向かって歩き出したのだった。
ピンポーン♪
チャイムを鳴らすと、すぐに応答があった。
「どちら様ですか?」
……え?
「そ、蒼太兄?俺だよっ!」
「白露?」
あ、そういえば今変装中なんだった……!!
そして、すぐにドアが開く。
「とりあえず、早く入れ!」
蒼太兄に強く腕を引っ張られ、急いで中に。
リビングは率直な感想、荒れていた。
観葉植物が倒れていたり、その辺にゴミが散乱していたり、仕舞いには水入りペットボトルが蓋の開いたまま、テーブルに倒れた状態で放置されていた。
普段の蒼太兄からは、想像出来ないような部屋……。
いつもなら、「自分の部屋片付けろー!」って騒いでいるのに……。
「わ、悪いな……ちょっと昨日、友達と夜中に酒飲んで暴れてさ……」
あはは、と誤魔化すように笑った蒼太兄。
机の上を片付けて、グラスにジュースを注いでくれる。
「ほい」
カルピスだぁ……!
グラスを両手で包み込むようにして口に入れる。
うん、やっぱり美味し〜……!
「それで……千秋?」
「なぁに?」
蒼太兄は少しだけためらう素振りを見せたあと、口を開く。
「どうして、アジトから逃げ出せたんだ……?ルート的に、俺の渡した脱出ルートではないだろう」
ルート的にって……ど、どうしてわかったの!?
「頭に刺さってる葉っぱだよ。これ、近くの公園に生えてる木だろ?……あと、俺の脱出ルートにこんな変な色のカツラは置いてない」
そう言って不満げに俺のウィッグを剥ぎ取る蒼太兄。
「カラコンも、目に負担かかるから取ってこい」
「はーい」
やっぱり変わってないや……相変わらずオカンみたい。
そう思いながら洗面所でカラコンを取る。
洗面所も懐かし〜……。
あれ?
なんか……何この髪の毛。
長さはパッと見15センチはありそう。色は明るい茶色。
誰のだろ……?
首を傾げながらリビングに戻ると、粗方綺麗なリビングに戻っていた。
「あ、千秋。遅かったな___」
「蒼太兄」
蒼太兄の言葉を遮る。
「この長い髪の人……誰?」
もしも……愛人、とかだったら。
軽蔑するどころじゃないかも。
なんとも言えない、どす黒い感情に支配されそうになったとき。
「あぁそれか?しゅんだよしゅん」
しゅん……えっ!?
「お前の妹」
い、妹……しゅん……。
「なんだ、勘違いしたのか?」
優しく笑って俺の頭を撫でる蒼太兄。
う……勘違いしたのは悪かったけど!
蒼太兄も蒼太兄じゃない?
髪の毛ぐらい掃除してよね!!
「悪い悪い。今度から丁寧に掃除機かけるから」
ほんとだよ、まったく……!
はぁ……と息を吐いて、ジュースをもう1口飲んだ。
「で、話を戻すけど……どのルートを通ってきた」
どうしよう……なんて言おう……。
まぁ、正直に話せばいっか……。
「えぇっと……」
この際だから、洗いざらい話してしまおう精神でぶっちゃけると、蒼太兄は真剣に頷きながら聞いてくれた。
「いいなぁ……千秋は、2人に会えたのか」
ちょっと不満げにそう口にする蒼太兄。
「元気そうだったか?」
「うん!」
こくりと首を縦に振る。
って、そんなことしてる場合じゃなかった……!
「蒼太兄!今2人が、多分バルーンチャートに捕まってて……!」
「は?」
「急になつ兄に敵が攻めてきたって言われて、脱出用の穴に落とされた」
蒼太兄はぶっと吹き出すと、ん"んっと咳払い。
「そうか……なら、とっとと準備して……真正面からぶつかりに行くぞ」
にやり、と怪しげに笑った蒼太兄。
手際よく隠しておいた拳銃やらナイフやらを取り出して、バッグに詰め始める。
「これも必需品だな」
蒼太兄が手に取ったのは、栄養補給用のキャンディー。
フルーツの成分がたくさん入っていて、体に優しいやつ。ちゃんとカロリーも取れるよ!
俺の指にそっと指輪を差し込む。
この指輪は、蒼太兄のお友達手作りの指輪で、宝石に見せかけたノコギリが仕込まれている。
手首を縛られていても、この指輪を押し当ててノコギリのように動かせば、あっという間に縄が切れる、という仕組み。
右手の薬指を確かめてから、蒼太兄を見あげた。
「行くか!」
蒼太兄は内側から家の鍵を何重にもロックしたあと、地下室へ続くハシゴを降りて行く。
「こっちが、俺の用意した本来のルートだ」
蒼太兄は慣れた手つきでパスワードを打ち込み、セキュリティをかいくぐっている。
俺も、置いてかれないようにしなきゃ……!
置いて行かれないように、必死で蒼太兄の後を追った。
いったぁ……!おしり打った……!
うわ、真っ暗……。
着地(?)したところにふかふかのクッションが敷いてあったから、あんまり痛くない。
ぐいっと溢れ出た涙を拭って立ち上がる。
よし……。
奥に向かって壁を伝いながら歩く。
幸いにも通路はあまり広くないみたい。
両手を伸ばせば左右に当たるくらいの幅。
ゆっくり慎重に歩いていると。
ん? なんか今手に当たった……?
その直後に、カチッと音がして、俺の頬を何かが掠めた。
ほっぺに手を当てると、液体が指につく。
……なるほどね。
思い切って、ダッと勢いをつけて走り出す。
5秒くらいで壁にたどり着いた。
はぁ、疲れた……。
あれは、簡単なトラップだ。
壁に手をついて歩いていると、無意識に足元に気を取られて、壁に注目できないんだ。
ネックレスを3つ、そっと穴にはめる。
よくよく見ると、少しだけ形が違う……。
徹底されてるんだなぁ……。
最後に俺のネックレスをはめた瞬間。
ゴゴゴゴゴ、と地鳴りのような音が響いて、1つのドアが現れた。
これ……いけんのかな……。
まぁいっか。行こう。
手をかけて、グッと引っ張る。
うわ、眩しっ……!
出たのは外じゃなくて、部屋みたいなつくりの場所。
あ、変装道具……。
色素からして、似ても似つかない真っ赤なウィッグ。
カラコンは薄いピンク色。
気持ち程度に置いてあるピン。
とりあえずウィッグとカラコンを付けて、フィットさせる。
ちょっとだけ乱暴に髪の毛をぐしゃぐしゃっとして、ヤンチャ系な髪型に。
メイクはあえてせずに、まつ毛も逆さまに下げる。
あとは……服かぁ……。
今手元にあるのは、制服と帽子だけ……。
うん、まぁいける!
まずは、ワイシャツの袖をめくってたくし上げます。
そして、ズボンのすその部分を足首が見えるくらいまでまくって上げます。
ワイシャツは、第二ボタンまで空けるのが、やんちゃ度を上げる!……と思ってます。
あとは、仕上げに柑橘系の香水をひとふき。
これでよし!
千秋風、やんちゃ系男子のかんせーい!
鏡を見て再確認したあと、ネックレスをはずしてポケットに入れる。
これは、俺が大事に持っておこう……!
その辺に置いてあったバッグを引っ掴み、色々詰め込む。
日焼け止めに見せかけた催涙スプレー(防犯用!)や、念の為の栄養補助食品。
ペットボトルの水。
スマホを握りしめて、ドアのとってに手を掛ける。
ぐっと引っ張り、外に出た。
外に広がっていたのは……海?
あ、違う。海のペイントがしてあるだけだった。
周りを見ると、路地裏?みたい。
人1人がやっと通れるような狭い路地で、街灯もなくて暗い。
夜に1人で歩いたら、補導されるか襲われるかのどっちかになるだろうな……。
幸いにもまだ午前9時すぎ。
一応持ってきたマスクを付けて、明るい方に歩く。
なんとか路地を抜け出ると、蒼太兄の家からあまり遠くない公園に出た。
ここにこんな路地裏があったとは……。
自分の記憶を頼りに、てくてくと蒼太兄の家に向かって歩き出したのだった。
ピンポーン♪
チャイムを鳴らすと、すぐに応答があった。
「どちら様ですか?」
……え?
「そ、蒼太兄?俺だよっ!」
「白露?」
あ、そういえば今変装中なんだった……!!
そして、すぐにドアが開く。
「とりあえず、早く入れ!」
蒼太兄に強く腕を引っ張られ、急いで中に。
リビングは率直な感想、荒れていた。
観葉植物が倒れていたり、その辺にゴミが散乱していたり、仕舞いには水入りペットボトルが蓋の開いたまま、テーブルに倒れた状態で放置されていた。
普段の蒼太兄からは、想像出来ないような部屋……。
いつもなら、「自分の部屋片付けろー!」って騒いでいるのに……。
「わ、悪いな……ちょっと昨日、友達と夜中に酒飲んで暴れてさ……」
あはは、と誤魔化すように笑った蒼太兄。
机の上を片付けて、グラスにジュースを注いでくれる。
「ほい」
カルピスだぁ……!
グラスを両手で包み込むようにして口に入れる。
うん、やっぱり美味し〜……!
「それで……千秋?」
「なぁに?」
蒼太兄は少しだけためらう素振りを見せたあと、口を開く。
「どうして、アジトから逃げ出せたんだ……?ルート的に、俺の渡した脱出ルートではないだろう」
ルート的にって……ど、どうしてわかったの!?
「頭に刺さってる葉っぱだよ。これ、近くの公園に生えてる木だろ?……あと、俺の脱出ルートにこんな変な色のカツラは置いてない」
そう言って不満げに俺のウィッグを剥ぎ取る蒼太兄。
「カラコンも、目に負担かかるから取ってこい」
「はーい」
やっぱり変わってないや……相変わらずオカンみたい。
そう思いながら洗面所でカラコンを取る。
洗面所も懐かし〜……。
あれ?
なんか……何この髪の毛。
長さはパッと見15センチはありそう。色は明るい茶色。
誰のだろ……?
首を傾げながらリビングに戻ると、粗方綺麗なリビングに戻っていた。
「あ、千秋。遅かったな___」
「蒼太兄」
蒼太兄の言葉を遮る。
「この長い髪の人……誰?」
もしも……愛人、とかだったら。
軽蔑するどころじゃないかも。
なんとも言えない、どす黒い感情に支配されそうになったとき。
「あぁそれか?しゅんだよしゅん」
しゅん……えっ!?
「お前の妹」
い、妹……しゅん……。
「なんだ、勘違いしたのか?」
優しく笑って俺の頭を撫でる蒼太兄。
う……勘違いしたのは悪かったけど!
蒼太兄も蒼太兄じゃない?
髪の毛ぐらい掃除してよね!!
「悪い悪い。今度から丁寧に掃除機かけるから」
ほんとだよ、まったく……!
はぁ……と息を吐いて、ジュースをもう1口飲んだ。
「で、話を戻すけど……どのルートを通ってきた」
どうしよう……なんて言おう……。
まぁ、正直に話せばいっか……。
「えぇっと……」
この際だから、洗いざらい話してしまおう精神でぶっちゃけると、蒼太兄は真剣に頷きながら聞いてくれた。
「いいなぁ……千秋は、2人に会えたのか」
ちょっと不満げにそう口にする蒼太兄。
「元気そうだったか?」
「うん!」
こくりと首を縦に振る。
って、そんなことしてる場合じゃなかった……!
「蒼太兄!今2人が、多分バルーンチャートに捕まってて……!」
「は?」
「急になつ兄に敵が攻めてきたって言われて、脱出用の穴に落とされた」
蒼太兄はぶっと吹き出すと、ん"んっと咳払い。
「そうか……なら、とっとと準備して……真正面からぶつかりに行くぞ」
にやり、と怪しげに笑った蒼太兄。
手際よく隠しておいた拳銃やらナイフやらを取り出して、バッグに詰め始める。
「これも必需品だな」
蒼太兄が手に取ったのは、栄養補給用のキャンディー。
フルーツの成分がたくさん入っていて、体に優しいやつ。ちゃんとカロリーも取れるよ!
俺の指にそっと指輪を差し込む。
この指輪は、蒼太兄のお友達手作りの指輪で、宝石に見せかけたノコギリが仕込まれている。
手首を縛られていても、この指輪を押し当ててノコギリのように動かせば、あっという間に縄が切れる、という仕組み。
右手の薬指を確かめてから、蒼太兄を見あげた。
「行くか!」
蒼太兄は内側から家の鍵を何重にもロックしたあと、地下室へ続くハシゴを降りて行く。
「こっちが、俺の用意した本来のルートだ」
蒼太兄は慣れた手つきでパスワードを打ち込み、セキュリティをかいくぐっている。
俺も、置いてかれないようにしなきゃ……!
置いて行かれないように、必死で蒼太兄の後を追った。


