手に握られたスマホを眺めて、ため息をつく。
少しは人を疑うってことを覚えろよな……。
あんなんじゃ詐欺にホイホイ引っかかるぞ。
若干呆れながら千秋のスマホをそっとポケットに入れて、トイレに向かう。
「悠里どこ行くのー?」
「ちょっとトイレ行ってくるわー」
星願にそう伝えてから足早にトイレへ。
個室に入って鍵を閉める。
ごめんな千秋……これも、仕事だから。
心の中でそう謝りつつ、スマホの電源を入れた。
えっと……千秋のパスワードなんだっけ……。
誕生日だっけ? それともお兄さんの?
落ち着け……落ち着け。
千秋は結構長風呂派だから、もう少し時間があるはず。
横髪を耳にかけてからスマホをじっと見つめる。
千秋かぁ……安直に誕生日いってみようかな。
1123っと。
ロックはかかったまま。
「……っ」
くそ……。
だいたいスマホは6回間違えるとだめだから……。
千秋が不審に思わないように、1回残しておかなきゃいけないから、あと4回。
お兄さんとは関わりがないからな……。
あ。でも……確か、"真冬"さんと"立夏"さんだから、冬と夏なはず。
くっそ、わかんねぇ……。
ギリっと舌を噛む。
それにしても……千秋らしいスマホカバーだな……。
シンプルイズベストって感じ。
別に……焦らなくても時間はある。
そう思い、トイレの個室を出て、足早にリビングへと戻った。


よかった……千秋まだ帰ってきてない。
伸びた前髪を弄りながらスマホを触る。
電波は一応あるけど……外部通信設定がオフになってる。
……ハッキングされたかな。
一応YouTubeとかは見れるっぽいけど……。
スクロールしていくと、俺の好きなYouTuberさんの新しい動画を見つけた。
おっ! よっしゃ、楽しみにしてたんだよな〜!
動画を再生させようとしたそのとき。
「ゆーりー!」
お風呂上がりの千秋がぎゅっと抱きついてきた。
シャンプーの甘い香りがふわっと鼻を掠める。
「スマホ、ありがとねー!」
ニコッと笑う千秋。
その目の奥は笑っていなかった。
その目にゾクッとしつつ、スマホをポケットから出して、千秋の手にのせる。
「ありがと〜っ」
その触れた手に、思わず鳥肌がたった。
……冷たい。
なんで?
風呂に入らずとも、シャワーなら少しは体も温まるはず……なのに。
よく見ると、千秋の顔色が真っ白。
手も若干震えている。
まさか。
「千秋!」
ぱっと千秋の手を握る。
「……なぁに?」
お前のポーカーフェイスには……騙されない。
「ちょっと話があるんだけど」
「……いいよ。明日ね」
ニコッと笑った千秋に、あえて何も言い返さずに手を離す。
そのあとはずっと柊馬と一緒に動画を見て過ごした。