リビングに入ると、数人の人が中にいて、テーブルの上に武器を並べていた。
「ありがとう、晴人(はると)
晴人、さん?
「白露、こいつは晴人。中学2年。こっちは萩真(しゅうま)で中1」
2人は揃ってぺこりとお辞儀してきた。
慌てて俺も頭を下げる。
「で……星願、今のは……?」
「今のは敵が攻めてきた合図……戦闘態勢に入れ、ってアナウンス的なやつ」
敵が攻めてくるなんてことあんの!?
「俺らは主に戦闘じゃなくて手助け……回復を手伝ったり籠城時に料理したりとかの方」
だからリビングなのか。
「ここに隠し通路があるんですよ!」
晴人くんがそっと壁を指さす。
あ、なるほど。
ここだけ少し色が違うんだ。
コツコツと壁を叩くと少し反響しているのがわかる。
「晴人、萩真。この人は白露。中3」
「来栖白露です。よろしくお願いします」
「えーっ、星願よりかっこいい〜!」
「白露くんよろしくねっ!」
可愛いのはそっちでしょ!
晴人くんはクリーム色の髪の色で、萩真くんは明るい茶髪。
2人ともいい色……!
「おいなんだそれ!」
星願は苦笑いしながら拳銃をホルダーに入れる。
「あ、そうだ。一応白露も入れといて、それ。コイツらは料理とかしかできないから」
「うるせぇなー!手当て上手いんだからいいだろ別に!」
「そこを買われたんだよ俺たちは!」
なんだか微笑ましいなぁ……。
「ねぇ、湊とかは?」
ここにはいないけど……。
「アイツらは前衛だったり特攻攻撃だったり主に戦闘要員だから現地にいる」
何それ……じゃあ死んじゃうかもしれないってこと!?
「アイツらが死ぬわけないよ〜。大丈夫だって!」
星願は唯一の入口に向かって銃を構えながら笑った。
俺は何をしたら……?
辺りをキョロキョロと見回していると、晴人くんが声をかけてくれた。
「白露くん、手あいてるならこっち手伝ってほしいかも……!」
「わかった!」
晴人くんは何やら色んな色の液体を調合中。
……なんだこれ。
「今は回復薬の作成中なんだ。これめちゃくちゃいっぱい欲しいから、手伝って欲しいんだよ」
「おっけー」
晴人くんの隣に座り込み、フラスコに入った液体を真似して混ぜ合わせる。
「あ、白露くん上手い!」
後ろで覗き込んできた萩真くんが、嬉しそうに声を上げて、葉っぱのかけらみたいなやつをできた液にふりかけた。
「いっ、色変わった!?」
今まで透明感のある薄緑色だったのが、明るいピンク色になった!
「不思議でしょ〜。これ、代々アールアールに伝わる疲労回復の粉なんだ。あ、ヤバい粉じゃないから安心してね!?」
言い方可愛いな(笑)。
「じゃあこれどこで仕入れてるの?」
「俺らは知らないんだ〜。幹部の中の上位層しか知らないの」
幹部の、上位層……。
「あ、白露くんに説明したげるっ」
ぴょんっと横から入ってきた晴人くん。
「まず、アールアールは4つのチームというか、タイプがあるんですけど……加入時に3つのタイプに分けられます」
なるほど。忘れないよーにメモっとこうかな……。
「1つは特攻攻撃部隊。ここにはかなり強い人達が配置されて、大体の敵はここで食い止めます」
ひとつめ、特攻攻撃部隊……っと。
「2つ目はごく普通の攻撃部隊で、特攻部隊がやられたときに出動します」
うんうん……。
「3つ目は、俺らみたいなサポート側です。手当てが上手い人や、料理ができる人は大体ここにいます。あとは、力が弱め、とか」
あれ、ちょっと今グサッときたような……。
「4つ目は、それぞれが秀でており、なおかつ頭もよく切れる人が入る、幹部です」
おぉっ、そう聞くと幹部めっちゃすげー……!
「幹部の人達は底辺層、中間層、上位層に分けられます。これは能力の差によってしまうので平等ではないんですけどね」
そんなことあるんだ。やっぱりマフィアって大変だなぁ……。
「その中でも湊様は中間層にいらっしゃいますね。かなり凄い方です」
「えぇっ!? 湊が!?」
俺がそう言うと、晴人くんと萩真くんは顔を見合わせて、思いっきり吹き出した。
「それ言えるの同年代で白露くんくらいですよ?」
くすくす笑いながら薬を調合し続ける晴人くん。
「上位層の方は……白露くんが加入するときに電話してた人ですかね」
接点はそれくらいかなぁって言った萩真くんに、「俺会ったことあんのかよ!?」って言ったらまた爆笑されて悔しかったのは内緒です。
「名前もコードネームで呼ばせるようにして本名がバレないように徹底しているんですよ」
へぇ……。まぁ、全国レベルのグループの総長だから、日常にいろいろ支障をきたすのかもね。
「ちなみに、ボスのコードネームはPINKって言うんですよ」
ぴんく? なんで?
「上位層はボス含めて6人しかいないんです!まずボスのPINK様。で、副総長のBLUE様。他はRED様にWHITE様、GREEN様、YELLOW様ですね」
あ、全員色が名前なのか! なんかオシャレだなぁ……。
それにしても、みんな今戦闘してるんだよね……。
心配だなぁ……みんな無事だといいなぁ……。
そんなことを思っていたとき。
ガチャガチャガチャッとドアノブを動かす音が響き、そのあとパンパンパンッと銃声が3発。
「みんな下がって」
低くそう呟く星願。
……俺も加勢しなきゃ。
持っていたフラスコを専用の台に置くと、テーブルの上の拳銃を手に取る。
ガチャンッ!
ドアが開いた!!
誰だ、敵か……!?
「全員動くな!!」
男の人の怒鳴り声を無視して近づいて、猟銃を思いっきり蹴り飛ばす。
「っつ……」
男の人が怯んだ隙に、星願とうまく連携して男を地面にねじ伏せた。
身動きができないように馬乗りになり、ぐっと上から体重をかける。
さてと……誰こいつ……目出し帽みたいなの被ってるから顔わかんないし。
目出し帽を剥ぎ取り、顔を確認してもらう。
「っ、お前……!」
あれ、星願が知ってそうな反応。
「バルーンチャートのcircleじゃ……!?」
さーくる? 何それ、コードネーム?
「うちが幹部を色の名前で呼ぶように、バルーンチャートは幹部のことを形で呼ぶんです」
あ、さーくるって○のことか!
「これは予想外だったな……」
なんかcircleさんが喋ってるわ……。
「まぁいい。ここで来栖白露を足止めすることが目的だからな」
は?……俺!?
「何が目的なの」
珍しく低い声を出す星願。
「俺が敵のお前らに大人しく教えると思うか?……まぁいい。どうせお前は弱いしな」
「はぁっ!?」
「星願、落ち着いて」
こそっと耳打ちすると、俺の意図がわかったように黙り込む星願。
「俺らの目的は……捕まったバルーンチャートの仲間を奪い返すことだ」
バルーンチャートの仲間? ……捕まったって何?
「お、そっちの水色髪の方。顔色変わったなぁ。何か知ってるんじゃないのか?」
星願が……?
「俺らは知ってるんだぜ。バルーンチャートの雑魚共を捕まえて地下に監禁。拷問してバルーンチャートの情報を吐かせているってことをな」
何それ……。
「なっ……」
驚きを隠せない様子で星願が声を漏らす。
「青色髪のやつは力はあるのに知らないのか?もしかして入りたてか?」
もう何がなんだかわかんないって……。
「お前……なんかバルーンチャートに似たようなやつがいたような気がすんな」
え?
「っ、その話! もっと詳しく!!」
拘束された男の人に詰め寄る。
お兄達だったりして……。
「おうおうなんだ? もしかして姉か?」
……姉?
「姉って……女の人、なんですか」
「あぁそうだ。バルーンチャートのアネゴだよ」
なんだ……女の人か……。
「お前、兄を捜してるのか?」
「そうです!」
すると男の人はニヤッと笑ってスマホを見せてきた。
「ここにバルーンチャートのデータが全て入っている。お前の捜してるやつがいるかどうかはわからねぇがな」
っ……。
ごくんと息を飲む。
「まぁタダでとは言わない。きちんと交渉が必要だ」
交渉……。
「ねぇ白露、さすがにやばいよ……。こーゆー交渉するときは上に許可とんなきゃいけなんだよ? しかも……出会ったばっかの信頼できない敵なのに」
星願が俺の肩を掴む。
「……ごめん」
その手を振り払って男の人に近づく。
「ダメ……っ!!」
ぐいっと後ろに手を引かれる。
おわっ……!
コケそうになったのをギリギリで回避。
「条件は……そうだな……お前の髪の毛を貰おうか」
髪の毛……。
「なっ……髪なんて!」
星願の顔……真っ青。
このご時世、髪の毛1本でさえ危ない。
DNAから人物が当てられ、家族構成なんかもバッチリわかってしまう。
星願だってバカじゃないから、多分本気で危ないと思っているんだと思う。
……けど。俺にはもうこれしか手段がないから。
俺はそっと髪の毛を触り、1本を抜いて男の人に見せた。
「交渉成立だな。じゃあ今からお前のスマホにデータを送る。髪の毛はそれまで持っておいてくれ」
エアドロップでファイルが送られてくる。
「ありがとうございます」
そう言って微笑み、男の人の首を思いっきり叩く。
「なっ、おま……!」
意識を失った彼は、がくんとその場に倒れた。
「ごめんなさい。本名バレするのはちょっと」
髪の毛をゴミ箱に捨てて、3人に向き直る。
「怖がらせてごめんなさい」
ぺこりと頭を下げると、バシンと頭を殴られた。
「いった……!」
見上げると、涙目の星願で。
「この、バカっ! バルーンチャートに白露のデータが悪いように使われたらどーするの!? お兄さん達見つけたいのはわかるけど……その後先考えないのほんとに……ほんとにっ……!」
ボロボロ泣く星願の頭をそっと撫でる。
「ごめんなさい……勝てる自信があったんです……」
あの人は俺が暴力を振るタイプじゃないって決めつけていたようだし、完全に油断していたし……。
なんて、後悔しても後の祭りなことは自分も自覚してます……。
そのとき、「ん"ん"、あーあー」っと言う放送の声が聞こえてきた。
『アールアール諸君に連絡する! たった今、このアジトは我らバルーンチャートが支配した!』
っ!?
バルーンチャートが……!?
「白露、どうしよう……」
真っ青な顔で星願がその場に崩れ落ちる。
「星願、2人も落ち着いて! 放送は多分まだ終わってない!」
そう言って、リビングの鍵をかけ直す。
もう1つぐらい付けた方がいいかな……。
テーブルを引きずってきて、ドアの前に置く。
軽いバリケード。
きっと無いよりはマシだと思う。
その間にも放送は続く。
『そこで、アールアールの幹部上位層がこのアジトに居ないことが判明した』
そうなんだ……。
俺を誘うとき、わざわざ電話だったのも頷ける。
『俺らの目的は、アールアールを潰し、バルーンチャートを日本一にすること。その為に、今から言うやつは全国へ幹部上位層を捜しに行ってもらう』
今から……?
クシャッと髪を捲る音がマイクに乗る。
『まず幹部中間層。お前らはこの放送が終わったあと放送室に来い。幹部底辺層とその他は全国を走り回って来い。……来栖白露と、いつも一緒にいるやつらはリビングに集まるように』
え? ……俺!?
「何……」
「いや……白露くん、星願……行かないでっ!」
晴人くんと萩真くんがぎゅっと抱きついてくる。
「でも……行かなかったらきっと、この人にチクられて人生終了だと思うんだよね」
起きてるんですよね、と尋ねると、拘束された男の人はぱちっと目を開けた。
「いやあ、参ったなぁ」
「どーして抵抗しなかったんですか?」
「色々情報を喋ってくれないかなーと思ってさ」
そう言ってぱちんとウィンク。
「そうそう。知られっぱなしはフェアじゃないと思うから、俺の名前をトクベツに教えてやるよ」
すっと縄を解き、立ち上がる。
「俺の本当の名前は、ラント__吉見蘭都(よしみらんと)だ。以後お見知り置きを」
そう言うと蘭都さんは何やら球体の物を取り出して、俺らに向かって投げた。
その瞬間、ボンッと音がして、辺りが1面真っ白に染まる。
「うわぁぁあっ!」
晴人くんの叫びと共に目を開けると、そこにはもう蘭都さんは居なかった。
「とりあえず……俺らは行こう。行くしかないんだ」
星願の手を握ると、微かに震えている。
「大丈夫。俺が守るし……みんな一緒だから」
リビングの鍵を開けて、誰でも入れるようにする。
晴人くんと萩真くんは1度同い年の子と一緒に行動するため、リビングを出て行った。
「どうして俺らだけ名指して集めたんだろ……なんか裏がありそうで怖い……」
星願の言葉に頷きながらテーブルに置かれた武器を手にする。
……何かあったらこれで戦うしかない。
そっとポケットに武器を隠し、みんなが来るのを待った。