「国王陛下、どうぞ、こちらもお納めください」

 そして、山のような書類を、丁寧に国王陛下の前に差し出してきたセシルに、国王陛下も完全に言葉なし。

 ハッと我に返った騎士が、慌ててセシルから書類の束を受け取って、横にいる騎士に手渡していく。

「全ての証明ができたのではございませんが、ある程度の詳細は、そちらの書類に全て記録してございます。お調べになった時点で質問がございましたら、いつでも、お呼びつけくださいませ」

 書類を手渡したセシルは一歩下がり、うつむき加減ではあるが、国王陛下を真っすぐに見返していく。

「ホルメン侯爵家から挙げられた事実無根の誹謗(ひぼう)中傷、責任転嫁、偽証に関して、悪質なだけではなく、悪意とも呼べる攻撃」

 伯爵家への公開処刑、または見せしめ行為ではないかとも取れる、非常に恐ろしい行為だ。

「このような悪質な行為を、伯爵家でも許すことはできませんので、我がヘルバート伯爵家からは、ホルメン侯爵家、及び、クロッグ男爵家に対し、誹謗(ひぼう)中傷(ちゅうしょう)に対する名誉棄損(めいよきそん)(ざい)、侮辱罪、偽証罪、虚偽告訴等罪(きょぎこくそとうざい)、その全てを公式に、この場で、告訴いたします」

「なんだってっ!!」

 血相を変えて、ジョーランがセシルに向かって飛びかかってきた。

 咄嗟に動いた国王陛下の隣にいた騎士が、ジョーランの腕を取り上げ、ジョーランを地面に押し付けた。

「無礼なっ!陛下の御前であるぞっ」

 どうやら、セシルや付き人の少年が介入する必要はなく、俊敏に反応した騎士(国王陛下直属に仕える王宮近衛騎士団の団長だったのだが) に、この場は救われたようである。

「無礼者っ。陛下の御前で、非礼を働くなど不敬罪に値する」

 ひっ――と、地面に押さえつけられたジョーランの顔が、一気に真っ青に変わる。やっと、状況を理解しだしたのか、真っ青になった顔色だけではなく、その体がブルブルと震えだしていた。

 ジョーランを地面に押し付けたままの騎士が、視線だけを上げ、セシルを見返した。

「続けなさい」

「はい。では、婚約期間中の不義、不貞の行為、その罪を犯したジョーラン様には、姦淫罪(かんいんざい)。この場合、結婚はしておりませんから姦通罪(かんつうざい)にはなりませんが、同様に、婚約中でありながらも、ジョーラン様との関係を奨励、または承諾なされた男爵令嬢にも、姦淫罪(かんいんざい)、または同等の罪で告発いたします」

「ちょっと待ってよっ! ふざけないでっ――」

 あまりに自分の思い通りにならなく、状況が刻々と悪化しだしているその場で、バカ息子のジョーランに付き添って地獄行きなど、全く御免だ。

「バルトラム、取り押さえろっ」

 厳しく鋭い命令が飛んで、騎士の一人が飛び出してきた。
 すぐに、リナエの腕を取り押さえていく。

「いやっ! ちょっと、離してよっ! わたくしに乱暴するなんて、許されませんわっ。お父さまに言いつけますわよっ」

 捕まえられた腕から逃れようと、リナエが大暴れするものだから、リナエを抑えていた騎士が、一瞬、顔をしかめる。

「何をしているっ。取り押さえろっ」
「はい――」

 強硬手段で、リナエを抑えていた騎士も、リナエを地面に押さえつけるように取り込んだ。

「いやっ――!」

 無様な姿にさらされて、おまけにこんな侮辱までされて、リナエの顔が怒りで真っ赤に染まっている。

「連れていけ」

 不快そうに、国王陛下がその一言を吐き出していた。

「承知致しました。――カールソン!」
「はいっ」

 呼ばれた騎士が、すぐに駆け寄ってくる。

 ジョーランを押さえつけていた騎士がゆっくりと立ち上がり、その交代で、カールソンと呼ばれた騎士は、ジョーランの腕を取り上げ、一気に地面から引っ張り上げていた。

「連れていけ」
「「はい」」

 二人の騎士が頷くと同時に、ジョーランとリナエが、その場から連れ去られていく。

「いやっ! ――離してっ! 触らないで――」

 呆然としているジョーランに対し、金切り声を張りあげ、未だに抵抗しているリナエと共に、二人の姿が会場から消え去っていった。