奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

* * *


 ギルバートはセシルに気を遣い、全速力では走り込まなかった。

 それでも、切羽詰まった状況を懸念して、全員の足がかなりの速度で進み、ジャン達が示した目的場所に辿(たど)り着いていた。

 その場所では、フィロが一人きりでセシル達を待っていたらしく、目的場所に到着したセシルに、すぐにフィロが状況説明をしてくれた。

「ケルトとトムソーヤに、奴らの隠れ家らしき家の近辺を見張らせています」

 最初は、フィロもケルト達と一緒に行動していたらしいが、男達が裏道を抜けきり、どこかの家のような場所に入って行くと、ケルトとトムソーヤをその場に残し、フィロだけ一人、ジャン達と分かれた場所に戻って来ていたのだ。

 ジャン達に、緊急信号の印を残しても良かったが、それだと、お互いに合流するまでに時間がかかってしまうと判断して、フィロは中継地点として、最初の場所に戻って来ていた。

 そのおかげで、セシル達は簡単にフィロと合流することができたのだ。

 もし、隠れ家のような家から、男達がまた移動した場合、ケルトかトムソーヤのどちらかが後を追うことができる。
 それで、一人が連絡役として、中継できる。

 だから、そう言った状況を想定して、初めから、ジャンは三人の仲間にあの二人の男を尾行させたのだ。

 フィロに案内させ、セシル達もケルトとトムソーヤ達のいる場所にやってくることができた。
 ケルトが通りの見張り役なので、フィロやセシルを見つけて、ケルトの方が近付いて来た。

 トムソーヤは昔から見張り役が上手く、その経験を活かし、隠れ家らしき家の裏で、男達を見張っているらしい。
 それで、ジャンとケルトが戻り、トムソーヤを連れて来た。

 全員が固まると目立ってしまうので、家の影に隠れるように横道に入って行く。

「状況の説明をしてください」

「男達は家に入ったまま、まだ出てきていません。家が連なっているようですので、一応、家の反対側も確認してみましたが、次の家がくっついているので、裏口はないように思われます。中の状況は確認できませんでした」

「それは問題ありません。下手に近付けば、トムソーヤの身も危険にさらされていましたからね。他に、人の出入りは?」

「ありませんでした。私が見張っている間も、外への動きは全くありません」
「そうですか。男達の風体は?」

 五人が顔を見合わせる。
 フィロが前に出て来た。

「一人は不精(ぶしょう)(ひげ)がありました。二人共、汚れたシャツに、トラウザーズを()いています。走り去っている時でも、周囲の通行人達と大した背丈が変わらなかったので、背も、まあ、私程度の背丈でしょう。不精髭の男の方は、偉丈夫に近いかもしれませんが、残りの男は()せ型です。あの場では、武器の携帯は目撃していません」

 小型のナイフ程度の暗武などを潜ませていなければ。

「そうですか。他には?」

 ケルトが自分の懐中時計を確認してみる。

「ジャンと別れたのが11時ちょっと過ぎです。それから、男二人を追って、この場所に着いたのだ、11時半頃。今は、12時ちょっと過ぎ。あれから、一時間は、何も動きがなかったようです」

人攫(ひとさら)いをしておいて動きがないとなると――誰か他の人間を待っているのかしら?」
「もしくは、昼時なので、今は休憩中か」

 人攫いなど大罪に近い犯罪を犯しておいて、呑気に昼食を取っている気が知れないが、ジャン達の話から判断しても、男達の動きはあまりに慣れていて、計画的で、咄嗟に思いついた行動ではないことは確かだ。

 それなら、犯罪に余裕のある人間なら、昼食など、そんな雑事を普通に気に掛けるかもしれない。

「連れ去られた女性の外見は、どんな感じでしたか?」
「平民の格好をしていたように思えましたけど」
「確かに……。買い物カゴを持っていたような?」

「他の特徴は?」
「いえ……。特別、目につくような特徴は、なかったと思います。後ろ姿でしたので……」
「そうですか」

 ふむと、ある程度の状況確認ができて、セシルの頭の中にも、現状のイメージが出来上がって来た。

 今の所、判っている事実は、人攫いの男が二人。二人共、平民。
 連れ去られたのが、若い女性。彼女も、平民。買い物途中か、それに近い行動中、さらわれてしまった。

 悲鳴を上げる隙もなく。
 麻袋で移動。馬車でもなく。

 袋の中で悲鳴も上げず、恐怖でパニックしていないのなら、たぶん、女性は気絶させられているはず。ほぼ、意識がない状態。

 見張っている間の動きはなし。移動もなし。一時間ほど。

 近辺の家は、かなり閑散としている。ここらの住民達は、日中は働きに出て、家を空けている可能性が大。

 他の仲間を待っているのか、次の移動の為に夜まで待っているのか。
 ただ単に女性を襲う為なら、こんな手の込んだ仕込みをする必要はないだろう。

 嫌な話だが――凌辱(りょうじょく)する目的だったのなら、初めから、女性が一人きりになるチャンスを待ち、狙い、襲っていたはずだから。

 わざわざ、袋の中に隠してまで移動する必要性がない。

「ちょっと確認すべきですね。他の仲間などが混ざって来る前に」
「えっ……?!」

 ぎょっとしたのは、ギルバートの方だ。

 だが、セシルは(いた)く真面目な顔をして、ギルバートに向き直る。

「犯罪人は、今の所、二人。それなら、少々、手荒に乗り込んでしまってもいいかもしれません」
「家の中に、それ以上の人数がいたとしたら?」

「ですから、ここは、敵意の一番少ない、あまりに疑われない立場の者を送り込んでみましょう」
「子供達の誰か一人ですか?」

 にこにこと、セシルの澄ました笑みが変わらなくて、ギルバートが嫌そうに眉間を寄せ出してしまう。

「冗談でしょう? ご令嬢には、そんなことさせられません」
「私は、何もしません。ドアをノックするだけです。ドアの隙間から、家の中の様子を確認できるかもしれませんから」
「ダメです」

 速攻で却下だった。