「なっ――なんですってっ……!」
顔を真っ赤に紅潮させて、怒りで肩を震わせている令嬢は、あまりの侮辱に頭が沸騰していて、まともな会話ができていない。
「本当に、王国の貴族はなってないのですねえ」
「――――っ!」
怒りのまま爆発しそうになっている令嬢だったが、肩で息をしながら、最後の一線で、自分を抑え込んだようだった。
「ギルトン子爵、ですか?」
それを聞いて、ハッと、令嬢の顔つきが変わっていた。
セシルはわざと首を横に倒してみせ、
「王国騎士団の決断を侮辱し、他国のゲストに非礼を働くなんて、子爵は、なんとおっしゃるのかしらねえ?」
「……告げ口する気なの?」
「告げ口? それは、過失や秘密を、こっそりと告げることでしょう? 私は、こっそりなどする必要はありませんわ」
それを聞いて、一気に、サーっと、令嬢の顔色が落ちてしまっていた。
さすがに、誰もいない場所なら、令嬢がした行為など誰にも知らされずに済む、と高を括っていた令嬢の落ち度だ。
「安心してくださいな。言葉を違えず、しっかりと、お伝えしておきますから。あなたの言葉通りに」
「……なっ、なによ、そんなの……」
「周囲に誰もいなければ、自分一人で騒ぎ立てて、侮辱してやれば清々する、とでも考えていたのでしょう? それも愚直極まりないですのね。私達の周囲に誰もいないからと言って、私達が一人で、王宮や騎士団の訓練所をうろつけるとでも思っているのですか?」
ハッとして、令嬢が周囲を探り出す。
令嬢の視界に、は誰一人見当たる人間はいないように見えた。
でも、もしかして、騎士団の誰かが、この連中に陰から付き添っていたなら、セシル達が勝手に作り上げたでたらめだ、言いがかりだ――なんて、令嬢は文句を言えなくなってしまう。
「だから、愚行極まりない、と言っているのですよ。自分の立場も弁えず、浅はかな考えで、私を攻撃しようと考えたのでしょう? 攻撃してくるのなら、本気でかかってくるのね。私も本気で相手になりましょう。絶対に、手など抜きませんから。あなたの顔は、しっかりと覚えましたよ」
淡々と、全く態度も変わらず、また、セシルがその一言を繰り返していた。
まるで、次に会った時には絶対に忘れないし、今日された侮辱だって許す気はないし、それで、次は必ず令嬢に攻撃し返す――とでも言いつけられているかのような、暗黙の迫力だった。
令嬢はいても立ってもいられなくて、バッと、その場を駆け出していた。
みるみる間に、走り去っていく令嬢の後ろ姿が消えていく。
「なにあれ」
フィロがあまりに冷たく、あまりに小馬鹿にしたように、吐き捨てていた。
「本当に、ねえ」
それで、あまりにバカ臭くて、相手にもしていられない女に、時間を無駄に潰されてしまった。
「あれで、イジメてるつもりなんですか? マスターに言い負かされて、口答え一つできてないじゃないですか」
「そうねえ。無駄な時間でしたわ」
「でも、顔は覚えました」
「そうですねえ。忘れやすそうな、あまりに平凡な顔で、平凡な容姿でしたけれど、私も、一応、覚えましたよ」
そして、そこで、ちゃっかりと、令嬢を貶すことも忘れないセシルだ。
全員が、皮肉気に笑いを堪えている。
「さあ、行きましょうか? 無駄な時間を潰してしまいました」
「そうですね」
それで、全員がまた、宿舎に向かって歩き出した。
「再戦でもゲリラ戦に勝ったので、今夜は、お祝いに、外に食べに行きたいです」
ジャンがそんなことを漏らしていた。
「あら、そう? では、外出する旨を、話しておきましょう」
「「やったっ!」」
これで、今夜も、全員は出かけることができる。
せっかく、大王国の王都に来ているのだから、まだ行っていない食事処だって、確かめてみたいのだ。
それで、宿舎に戻ったセシル達は、今夜、外出したいという旨を騎士に話し、ギルバートに伝えてもらった。
屋外の訓練の片付けの指示を出し終わり、仕事を終えて来たようなギルバートが顔を出し、セシル達の外出はOKされていた。
もちろん、先程の一件を、しっかりと報告することを忘れずに。
甘ったれた横柄な小娘には、一喝が必要なのだ。
セシルだって、わざわざ、情けをかけてやる気だってない。
それで、一言一句、全く言葉を違えずに、さっきの令嬢の侮辱と無礼さを説明しているセシルの前で、段々と、ギルバートの眉間がきつく寄せられ出していた。
最後の方になっては、むーっと、言えそうなほどの、ものすごい気難しい顔をして、自分の腹立たしさを押さえているかのような態度になっていた。
「――大変申し訳ありませんでした。そのような非礼、無礼な行い、謝罪致します」
「あら? 副団長様がなさったことではありませんでしょう? 副団長様が、謝罪なさることではありませんわ」
「ですが、皆さんが滞在している間、王宮内での問題は、私の責任です」
「あの程度、問題にする価値もありませんわよ」
あまりにあっさりとしていて、怒っている様子もないセシルに、ギルバートはまだ顔をしかめたままだ。
「別に、告げ口、などというものをしているのではありません」
「わかっております」
「だって、こっそり、内緒話をしているのではありませんものね。こんなに、公明正大に打ち明けていますもの」
「そう、ですね」
セシルの口元は、笑いを堪えているように、微かにだけ上がっている。
セシルにとっては、先程の事件はあまりにくだらなさ過ぎて、気にもかけていないような事実だけが、ギルバートにとっては救いなのだろうか。
「ですから、しっかりと、一喝してくださいね」
「分かりました」
「ふふ。我儘で偉そうな小娘ですものね。恥をかいた父親から、きつく一喝されて、少しは反省することでしょう。おまけに、王国騎士団からも名を覚えられて、しばらく、騎士団には顔を出せませんでしょうしね」
つらっと、そんな辛辣なことを、平気で、おまけに、穏やかな様相のまま漏らすなんて、本当に、セシルは容赦がない令嬢だ。
だが、騎士団に顔を出したのなら、王国騎士団のゲストを侮辱した罪で、しばらく出入り禁止令でも出せることだろう。
それで、しばらく、うるさい貴族令嬢達がうろつくことはなくなるかもしれない。
災い転じてなんとやら――とでも、ギルバートも、一応、喜ぶできなのだろうか?
顔を真っ赤に紅潮させて、怒りで肩を震わせている令嬢は、あまりの侮辱に頭が沸騰していて、まともな会話ができていない。
「本当に、王国の貴族はなってないのですねえ」
「――――っ!」
怒りのまま爆発しそうになっている令嬢だったが、肩で息をしながら、最後の一線で、自分を抑え込んだようだった。
「ギルトン子爵、ですか?」
それを聞いて、ハッと、令嬢の顔つきが変わっていた。
セシルはわざと首を横に倒してみせ、
「王国騎士団の決断を侮辱し、他国のゲストに非礼を働くなんて、子爵は、なんとおっしゃるのかしらねえ?」
「……告げ口する気なの?」
「告げ口? それは、過失や秘密を、こっそりと告げることでしょう? 私は、こっそりなどする必要はありませんわ」
それを聞いて、一気に、サーっと、令嬢の顔色が落ちてしまっていた。
さすがに、誰もいない場所なら、令嬢がした行為など誰にも知らされずに済む、と高を括っていた令嬢の落ち度だ。
「安心してくださいな。言葉を違えず、しっかりと、お伝えしておきますから。あなたの言葉通りに」
「……なっ、なによ、そんなの……」
「周囲に誰もいなければ、自分一人で騒ぎ立てて、侮辱してやれば清々する、とでも考えていたのでしょう? それも愚直極まりないですのね。私達の周囲に誰もいないからと言って、私達が一人で、王宮や騎士団の訓練所をうろつけるとでも思っているのですか?」
ハッとして、令嬢が周囲を探り出す。
令嬢の視界に、は誰一人見当たる人間はいないように見えた。
でも、もしかして、騎士団の誰かが、この連中に陰から付き添っていたなら、セシル達が勝手に作り上げたでたらめだ、言いがかりだ――なんて、令嬢は文句を言えなくなってしまう。
「だから、愚行極まりない、と言っているのですよ。自分の立場も弁えず、浅はかな考えで、私を攻撃しようと考えたのでしょう? 攻撃してくるのなら、本気でかかってくるのね。私も本気で相手になりましょう。絶対に、手など抜きませんから。あなたの顔は、しっかりと覚えましたよ」
淡々と、全く態度も変わらず、また、セシルがその一言を繰り返していた。
まるで、次に会った時には絶対に忘れないし、今日された侮辱だって許す気はないし、それで、次は必ず令嬢に攻撃し返す――とでも言いつけられているかのような、暗黙の迫力だった。
令嬢はいても立ってもいられなくて、バッと、その場を駆け出していた。
みるみる間に、走り去っていく令嬢の後ろ姿が消えていく。
「なにあれ」
フィロがあまりに冷たく、あまりに小馬鹿にしたように、吐き捨てていた。
「本当に、ねえ」
それで、あまりにバカ臭くて、相手にもしていられない女に、時間を無駄に潰されてしまった。
「あれで、イジメてるつもりなんですか? マスターに言い負かされて、口答え一つできてないじゃないですか」
「そうねえ。無駄な時間でしたわ」
「でも、顔は覚えました」
「そうですねえ。忘れやすそうな、あまりに平凡な顔で、平凡な容姿でしたけれど、私も、一応、覚えましたよ」
そして、そこで、ちゃっかりと、令嬢を貶すことも忘れないセシルだ。
全員が、皮肉気に笑いを堪えている。
「さあ、行きましょうか? 無駄な時間を潰してしまいました」
「そうですね」
それで、全員がまた、宿舎に向かって歩き出した。
「再戦でもゲリラ戦に勝ったので、今夜は、お祝いに、外に食べに行きたいです」
ジャンがそんなことを漏らしていた。
「あら、そう? では、外出する旨を、話しておきましょう」
「「やったっ!」」
これで、今夜も、全員は出かけることができる。
せっかく、大王国の王都に来ているのだから、まだ行っていない食事処だって、確かめてみたいのだ。
それで、宿舎に戻ったセシル達は、今夜、外出したいという旨を騎士に話し、ギルバートに伝えてもらった。
屋外の訓練の片付けの指示を出し終わり、仕事を終えて来たようなギルバートが顔を出し、セシル達の外出はOKされていた。
もちろん、先程の一件を、しっかりと報告することを忘れずに。
甘ったれた横柄な小娘には、一喝が必要なのだ。
セシルだって、わざわざ、情けをかけてやる気だってない。
それで、一言一句、全く言葉を違えずに、さっきの令嬢の侮辱と無礼さを説明しているセシルの前で、段々と、ギルバートの眉間がきつく寄せられ出していた。
最後の方になっては、むーっと、言えそうなほどの、ものすごい気難しい顔をして、自分の腹立たしさを押さえているかのような態度になっていた。
「――大変申し訳ありませんでした。そのような非礼、無礼な行い、謝罪致します」
「あら? 副団長様がなさったことではありませんでしょう? 副団長様が、謝罪なさることではありませんわ」
「ですが、皆さんが滞在している間、王宮内での問題は、私の責任です」
「あの程度、問題にする価値もありませんわよ」
あまりにあっさりとしていて、怒っている様子もないセシルに、ギルバートはまだ顔をしかめたままだ。
「別に、告げ口、などというものをしているのではありません」
「わかっております」
「だって、こっそり、内緒話をしているのではありませんものね。こんなに、公明正大に打ち明けていますもの」
「そう、ですね」
セシルの口元は、笑いを堪えているように、微かにだけ上がっている。
セシルにとっては、先程の事件はあまりにくだらなさ過ぎて、気にもかけていないような事実だけが、ギルバートにとっては救いなのだろうか。
「ですから、しっかりと、一喝してくださいね」
「分かりました」
「ふふ。我儘で偉そうな小娘ですものね。恥をかいた父親から、きつく一喝されて、少しは反省することでしょう。おまけに、王国騎士団からも名を覚えられて、しばらく、騎士団には顔を出せませんでしょうしね」
つらっと、そんな辛辣なことを、平気で、おまけに、穏やかな様相のまま漏らすなんて、本当に、セシルは容赦がない令嬢だ。
だが、騎士団に顔を出したのなら、王国騎士団のゲストを侮辱した罪で、しばらく出入り禁止令でも出せることだろう。
それで、しばらく、うるさい貴族令嬢達がうろつくことはなくなるかもしれない。
災い転じてなんとやら――とでも、ギルバートも、一応、喜ぶできなのだろうか?

