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 王国騎士団が集まる館や、訓練所、宿泊所などは、王宮の一画として陣を構えているが、王族が暮らす王宮の館や管理棟が並ぶ場所からは、かなり離れた場所に設置されていた。

 王宮への出入りは、厳重な警戒の元、しっかりと管理されている。

 王宮の正門から入った区域は公共用で、貴族であれば、正門で身分証明と荷物の検査を受ければ、大抵は、(貴族であれば)誰でも入ることが可能だ。

 それから、業務用区域になれば、仕事により館などが区分けされ、その区分け地域で、許可された人間だけが出入り可能となる場所がたくさんある。

 館と館の出入りなど、司書や伝達役などの雑務係りはある程度の自由な出入りができても、それ以外は、館の入り口で、相手を呼んでもらわなければ入棟できないルールが設置されている。

 それから、高位貴族用の私室があったり、大広間などの集会場所、談話室や娯楽室、色々な部屋が続き、王宮の最奥には、王族が住まう館が高く聳えている。

 そこからまたかなり離れた場所に、王国騎士団の砦と館が設置されていた。

 王国騎士団側の砦や館の方は、王都に続く裏門にも通じていて、商用門など、業務用の荷馬車などが通る門も並んでいる。

 その一つをくぐると、王宮の館のような厳しい検問もなく、王国騎士団の館が並ぶ場所に行くことができる門がある。

 見張り台や砦が聳え、その奥に、王宮騎士団の館が立ち並んでいる場所だ。

 それは、普段、騎士団の騎士達が使用する通行門とも言えようか。その門では、あまり検問が厳しくないのだ。

 なにしろ、そこら中にいつも騎士達が出歩いているので、不審人物は中々容易く近づけないという利点があったから、毎回、毎回、騎士達一人一人を確認していないのだ。

 その場所には、大抵、いつも、きゃあきゃあと、騒がしい若い令嬢達の歓声が沸き上がっている場所でもあった。

 騎士など、カッコよく、見目麗しくて、憧れの職業に就いている若い青年騎士が多い。貴族の端から端まで色々と地位は別々だが、それでも、王国内では、騎士団はいつも優遇される立場だ。

 そんな将来有望な紳士がたくさんいるだけに、若い貴族の令嬢達が、毎度、訓練場所を訪れて、歓声を上げているのだ。

 訓練時間を見計らってくるのか、訓練中は、大抵いつも邪魔しにくる令嬢達だ。

 今日もまた、恒例行事で、若い令嬢達が色めいて、きゃあきゃあと歓声を上げている。

 そして、訓練が終わると、誰か騎士の一人が声をかけてくれないかと、その場をうろついている令嬢達が絶えない。

 裏門を使用しては王都に戻ってしまうので、少々、距離はあるが、王宮の公共用のガーデンに戻る道を使用すれば、まだ王宮にいることもできる。

 そのガーデンに行く道を通り過ぎていた一人の若い令嬢は、ピタっと、そこで足を止めていた。
 遠巻きに視界に入って来た姿に、ピタリと、足を止めていたのだ。

 それで、目を凝らすようにあっちを凝視して、その姿を認めると、パっと、瞳が飛び上がっていた。

「なによっ、あの女じゃない! 一体、どういうこと!? また、王宮に顔を出しているわけ? ふざけ過ぎてるんじゃないの」

 あまりに憎々し気に、敵意満々で、まだ少女とも言えそうな若い令嬢が、その場で憤怒を露わにしていた。

 それからすぐに、その口元が、あまりに意地の悪そうに歪められ、標的として見定めた向こうの相手を睨め付けて行く。

「調子に乗ってるんじゃないわよ。なによ、ギルバート殿下に贔屓されたからって――」

 ずんずんと、勇みこんだ足並みで、令嬢が今来た道を戻って行く。

 視界に見えて来るあの姿は、どう見ても、男装ではないか。

「恥さらしっ!」

 それを吐き出して、その足並みが早まった。

「ちょっとっ、そこの女っ!」

 いきなり叫ばれて、セシルはただ冷たい眼差しを後ろに向けた。

 一緒に付き添っている子供達も、何だこの女っ、とあからさまに冷たい目を向けて、後ろを振り返る。

 ズンズン、ズンズンと、セシル達の方に、若い令嬢が勇み込んで来た。

「この王宮をうろつくなんて、一体、どういうことっ?! 一体、誰に許可を得て、勝手に王宮に入り込んだのよ」

 その一言だけで、すでに、セシルも、この令嬢を“バカ女”と、あまりに冷たく見切りをつけていた。

 アトレシア大王国のどこかの貴族令嬢だろうが、王宮に許可なしで出入り可能なわけがない。
 そんな常識を持ち出して、どうやら、セシルにわざわざと絡んできたようだ。

 見も知らぬ、不遜で礼儀知らずに、一々、セシルの事情を説明してやる気はない。

 セシルは無視を決め込むようで、令嬢を無視して、また歩き出した。

 その態度を見て、令嬢が大声を張り上げる。

「なんて、生意気なのっ!? 信じらないわっ。一体、何様気取りなの?! 貴族に挨拶もないなんて、どこの田舎者なのよ」
「お前、口に気を付けろよ」

 ギロッと、殺気も露わらに、ジャンが令嬢に向かってその言葉を投げ捨てていた。

「なんですって?! 失礼なっ。あなたこそ――」

 憤慨して、目を吊り上げんばかりの様相の令嬢が、ジロジロと、その目線を上から下まで動かして、ジャン達を値踏みした。

「平民の分際で、よくも、このわたくしを侮辱しましたわね。不敬罪で、すぐに処罰してやるわ」
「ふざけんなよ」
「口の利き方に気を付けなさい。平民のくせに、生意気なっ!」

 きーきー、耳障りな甲高い声を張り上げ、令嬢が叫んで来る。

 うるさそうに、セシルも顔をしかめ、それから、わざとにゆっくりと、令嬢を値踏みするようにその視線を上下させる。

「初対面の人間に対して、随分、礼儀がなっていないこと。躾もなっていないような小娘が、うるさく騒がないでもらいたいですわね」
「なんですって!?」

 セシルの侮辱に、令嬢の顔が真っ赤になる。

「なんて失礼なのっ! 他国の令嬢のくせに、王宮に普段着――ふんっ、それも男装でやって来て、そんなことが許されるとでも思っているの? 礼儀もなにもあったものじゃないわね。おまけに、平民を引き連れて来て、許されるはずもないでしょう? 汚らわしい」

「汚らわしいのは、その醜い性格に、醜い心をさらけ出しているあなただと思うけれど? 顔は心を映し出すと言いますけれど、随分、性格の悪そうな醜悪な顔をしているのですね。その方が恥ずかしくないんですか?」