「僕たちは隣国で、この国の定価を知らないから、値段を出さないのは卑怯だよ。積まれた金額で交渉するんだろうけど、子供相手に吹っ掛けようとするなら、それって、ぼったくりじゃない?」

 小生意気な――フィロに、店主が嫌そうに顔をしかめる。

「お前、こましゃくれたガキだな」
「そうだね」

 それで、益々、店主の顔が嫌そうにしかめられた。

 ガシガシッと、腹立たし気に頭をかいた店主が、
「お前がリーダーか? ガキの癖に、隙の無い奴だな」
「さあ」
「いくらなら出す気なんだよ」

「残りの三人だって、面白い武器があるなら、結構、買う気満々だよ。一人にぼったくって、残りの三人分見逃してたら、大損じゃないの?」

「こましゃくれたクソガキだな」
「そうだね」

「全員が買うって言うなら、仕入れの値段の5%増しだ。普通はもっと値を上げるがな。手入れに、保管の分だって取らにゃ、商売にならん」
「仕入れ時の証明書があるなら、5%増しでいいよ」

 店主の目が嫌そうに細められる。

「あのね、これでも、必死で働いて稼いだ金で買う、って言ってるんだよ。ガキなんだから、()()()くらいは、オマケしてくれてもいいんじゃないの? それに、僕らの後ろには、騎士団がついているだろう? “宣伝”、しないの?」

「クソガキが。今更、ガキ、って威張るなよ」
「どうするの?」

 ああ、腹立たしい――とでも言いたげに、ガシガシっと、店主がまた頭をかいていく。

「いいだろう」
「商談成立だね。だったら、色々、面白そうな武器見せてよ」
「クソガキが」
「クソガキでも、お客、だよ」

 ふんっと、鼻を鳴らしてそっぽを向くが、それでも、五人用の商談は成立したようだった。

 大抵、この手の交渉はフィロ専門である。おまけに、値切るのなら、フィロの口に適う人間は、早々、いない。

 なにしろ、グループ内で、一番の“悪巧み”専門の参謀サマだから。

 そんなこんなで、五人の前に、店主は、(最初の対応に反して)店に揃っている()()()()()武器を、ちゃんと持ってきてくれたのだ。

 見かけは仏頂面で怖そうな顔をしているが、商売はきちんとするらしい。
 今回は、いい店に当たったものだ。

 マントの下から、フィロの“GO”サインが出たので、残りの四人は、思う存分、面白そうな武器を確認させてもらったのだった。

「なあ、おっさん?」
「誰が、おっさんだ、おい」

 なんやかんやと、文句が出てくる店主である。

「この武器の他にさ――こう、軽くて、忍ばせて持ち歩くのに便利な剣とかない? ナイフじゃなくて」
「お前、そんな物騒なモン持ち歩いて、一体、何する気なんだ。あぶねーな」

「ないの?」
「あるにきまってるだろーが」

 なぜ、そこで自慢して来るのかは謎だが、ぶつぶつと、文句を言いながら――それでも、さっさと店の奥の方に行ってしまう。

 すぐに戻ってきて、ジャンの前に一つの棒を見せた。

「こいつはな、見かけはただの棒だが、仕掛けがされてる」

 その一言を聞いて、ケルトとハンスが、興味津々で、ジャンのすぐ隣に寄って来た。

「どんな仕掛け?」
「見てろよ」

 店主が棒を手に持ち、それを振ると――シュッと、真っ直ぐな剣が飛び出してきたのだ。

 おおっ! ――と、全員から興味津々の歓声が上がる。

「どうだ?」
「なあ、おっさん」

「誰が、おっさんだ、おい」
「じゃあ、おじさん。それって、また異国の武器? ここにあるの、結構、異国の物ばっかりだろ? どうやって手に入れてんの?」

「知り合いの傭兵に、集めてもらってるんだ」
「そうなんだ。異国の武器が好きだから?」
「ただ、珍しいからな」

 ということは、この店主の趣味が混ざっているのだろう。

「こうやって飛び出してくるヤツだから、真剣の扱いとは違うだろうな。力で押されたら、剣の部分が引っ込んじまう」

「それって役に立たないんじゃないの?」
「隠して持ち歩くには、最適だろうよ」

「まあ、そうだろうけど」
「お前ら、ガキの癖に、武器屋に顔を出す事態、尋常じゃないが、武器は遊びじゃないんだぜ」

 五人は表情も変えず、
「知ってるよ」

 ギロリと、五人の子供を睨め付けていた店主だったが、ふんっと、その説教はそこまで終わりだったようだ。

「どうするよ?」
「その切れ味は?」

「しっかり切れるぜ。俺が手入れしてんだからな」
「じゃあ、買うよ」
「いいだろう」

 そして、その売り上げも簡単に成立である。

 それから、色々な品物を見て、結局、五人が全員、それぞれに()()()()()武器を購入していた。どうやら、この武器屋は、大当たりの店だったらしい。

 ぶつぶつと、毎回文句を言っている割には、ちゃんとした商売をした男も、今日は一気に売り上げが入って、ホクホク顔。

 騎士団に宣伝するなら派手にしてくれな、とついでの言葉を付け足して、五人を見送った店主だった。

 それから、小腹が空いてきたので、露店商を回って、適当に買い食いしまくりである。

 コトレアだって色々な料理があるし、露店もでてきたが、アトレシア大王国の王都だって、結構、色々な露店が出ている。

 それで、片っ端から買い食いのしまくりだ。

 なにしろ、成長期なだけに、山ほど食べ歩きしているのに、全然、問題なく、次から次へと買い食いを続けている。

 セシルから、アトレシア大王国の王国騎士団から合同練習に誘われました、と説明された時、五人だって、今までの貯金分や、その間にもらった給金全部を使わずに貯めて、王都での買い物を楽しみにやってきたのだ。

 スラム街出身のクソガキが、どこか知らない国に遊びに行くなど――そんな大それた未来があるなど、一体、誰が考えたことか。

 今の五人は、自分で働いて、自分で貯めたお金があって、自分達で好きな買い物をして、好きな店を回っている。

 誰かに責められたり、追い出されたり、追いかけ回されたりする心配だってない。
 ただ、()()として、好きな通りに観光をしている。

 信じられないほどの――自由、だった。

 今日、買い食いしまくりで、武器屋以外のお店でだって、適当なものを買ったとしても、いいんだ。

 これで、持ってきたお小遣い、全部、使い切っても、いいや。

 子供だけど、でも、そこらの子供じゃなくて、生活費を稼いでいる、()()大人で、()()子供だ。

 これから全員が成人してしまえば、本格的な騎士の仕事について、フィロは正式な付き人になるだろうし、こうやって五人で行動できる機会だって、行動する場所だって、もう、なくなってしまうかもしれない。

 だから、今この時の自由が、五人にとって、五人が一緒にいられる最高の思い出になる一時だったのだ。


 世界を見に行きなさい――――


 うん、世界は――最高だよ。