* * *


 その頃――――

 大張り切りで、セシルの元を離れた子供達五人は、以前、目をつけていた何軒かの武器屋を見て回っていた。

 お店に入る度に、子供がやって来て、店の従業員らしき男達は、ギロリと、子供達を睨んでいたが、特別、ただ店を見て回っているだけの子供達を、追い出したりはしなかったようだった。

 そんなこんなで、三軒目のお店に入って来た五人だ。

「おい、この店はガキの遊び場じゃないんだぜ。さっさと出てけ」

 カウンターの奥で、かなり体格のいい偉丈夫の男が、五人の子供が店に入ってきて、キョロキョロと店内を見渡しているのを、しゃがれ声が遮った。

 五人の冷めた目が、ただ、カウンターの奥にいる男に向けられる。

「誰が遊びだって、言ったの?」

 子供の声でもなかったが、それでも、成人した大人の声音でもなかった。

 中央にいた一人が――他の子供よりも遥に冷たい目を向けて――カウンターにいる男を見ていた。

「ここは、ガキが来るような場所じゃねーんだ。さっさと出てきな」
「バカじゃないの?」
「ああっ?」

 あまりに淡々として、あまりに冷たく、一言だけで言い捨てた子供に、カチンときて、店主の男がいきり立つ。

「トムソーヤ」
「ええ? いいの?」
「いいよ」

 ふうんと、興味もなさそうな返事をした、一番小さい子供の着ている生成りのマントが、バサッ――と、一瞬、揺れていた。

 シュッ――――

 店主の耳元すぐ傍で、何かが――突き抜けていた。

 咄嗟に、店主が後ろを振り返ると、その場には――信じられないことに、細いナイフが壁に突き刺さっていたのだ!

「商売している癖に、目の前に金を落として行く客がいるのに追い出すなんて、商売下手なんじゃないの?」

 バカみたい――と、あまりに冷たい侮辱を含む声音で、その子供が言い捨てていた。

 店主の眉間が寄せられ、慎重に子供達を見返していく。

「お前ら、何モンだ?」
「隣国の者」
「隣国?」
「そう」

「なんで、この国にいる?」
「今は、ちょっとこの国を訪ねてるだけ」

 そう言って、その子供が、スタスタと、カウンターの方に歩いて来た。
 マントの下からなにかの紙を取り出して、トンと、カウンターの机の上に置いた。

 それで、店主の方もその紙を取り上げてみる。

「――――王国騎士団?! ――なんで、お前らみたいな子供がっ」
「別に、そんなことあなたに関係ないでしょ」

 そして、さっきから変わらない冷たい態度で、口調で、子供が、ただ、言い捨てていた。

 店主の顔が嫌そうにしかめられ、更に、嫌そうに片眉が上がる。

「じゃあ、書類返して」

 腹の立つガキで、口調だったが、一応、店主も紙を子供に返した。

 さっき行った武器屋でも、店の従業員なのか店主は、似たような反応をしていた。

 でも、五人は全員セシルからしっかりと忠告を受けていたから、特別、反抗するような気持もないし、腹立たしい感情もない。


「あなた達だけで買い物をした場合、たぶん、最初にお金がないだろうからと、追い払われる可能性が出てくるでしょう。それはね、別に、平民が買い物をしてはいけない、ということではないのですよ。ただ、基本的、子供が――そうですね、高い買い物などできないという先入観なだけですよ。個人的に差別しているわけではありませんからね」


 だから、正規で買い物を済ませるのなら、お金があるのなら、左程、文句は言われないだろう、と説明されていた。

 武器屋など、ただの一般市民が出入りするような場所でもないのは、五人も承知している。

 だから、その対応も反応も、子供が遊びに来たと思われても、まあ、そこまでは怒りはしない。

 それで、セシルがギルバートに頼んで、五人が王国に滞在している証明書を出してもらったのだ。

 たぶん、あの副団長サマは、すぐにセシルの意図を察して、その証明書に、わざわざ王国騎士団の紋章を入れた印を押してくれたのだろう。

 そのおかげで、五人の子供達は、お店からすぐに追い出される可能性は、ほとんどなくなった。

 それで、フィロが簡単にこの状況を解決したので、残りの四人も店主を無視して、店に置いてある武器を確認していく。

 ガキ相手に勝手に無視されて、おまけに、相手にもされなくて、ピキピキと、店主の眉間が揺れていた。

「おいっ、さっきのガキ」

 トムソーヤがただ首だけを回し、カウンターの奥にいる店主を見やる。

「いいモンを見せてやる。こっちに来い」

 偉そうな物言いだったが、トムソーヤが、チラッと、フィロを見た。
 それで、フィロも一緒になって、トムソーヤとカウンターの方にやって来る。

「なに?」
「ガキの癖に偉そうに」

 そう、ぶつぶつ文句を言うことは忘れなく、店主が屈んで、ゴソゴソと、なにかカウンターの下から箱を取り出した。

 箱の蓋を開け、カウンターの机の上にそれを置いてみせた。

「こいつはな、つい最近入ったモンでな。異国から回って来たらしいんだが、使い道が謎だから、店に置くのもどうしようかと考えてたんだがよ。お前、投げてみろよ、さっきみたいに」

 箱の中に並べられていたのは、数本の――なにかナイフのような先が尖り、柄のない武器? だったのだろうか。

 黒い鉄製で、先っぽが三角に尖っていて鋭い刃には見える。でも、柄がない分、まっ平で、端の部分は丸い穴がある。

 つい、トムソーヤだって、その穴に指を入れて確かめてしまった。

「へええ。こんなの見たことないや」
「ナイフだとは思うんだがな。切れることは切れるしよ」

 ふうんと、初めて見る武器を指に入れたまま、一応、クルクルと回してみる。
 トムソーヤの指の太さなら、丸い穴も塞がれず、簡単にクルクルと回っている。

 だが、見た目に反して、随分、軽いナイフ(?)だった。

「投げてみろよ」
「どこに」

「後ろの壁でいいぞ。別に、壁の修理代なんて請求してやらんから、心配するな」

 ふうんと、トムソーヤは、クルクル回していたナイフの感触を確かめ、重さを確かめた。

 それで、箱の中の二本も更に取り上げて、その腕を払う。

 シュッ――
 シュッ――――

 近距離とは言え、三本揃って、さっきトムソーヤが投げたナイフと同じ場所に、そのナイフのようなものが突き刺さっていった。

「ほうっ! やるじゃねーか、ガキの癖に」
「ガキ、は関係ないよ」

 それで、太い腕を組んで、店主は、結構、素直に感心している様子だったのだ。

「どうだ?」
「見た目よりもすごい軽い」

「どうだ?」

 その質問は、トムソーヤを客として認めたようである。

「面白そうだから買ってもいいけど、値段にもよる。ものすごい高いなら、買わない。これでも、必死に稼いだ金だから」

「ほう? たったら、いくら出すんだよ」