「今日は、せっかくの休息日ですから、皆も休暇を楽しんでね」
アトレシア大王国は大国だ。その王国の王都は、たくさんの人でごった返していて、賑やかだ。
「お昼なども、それぞれ個人で決めましょう。私は、お土産などの買い物を見て回りますから、一応――三時頃? もう一度、ここで落ち合いましょうか?」
はいっと、全員から、お行儀のよい返事が返って来た。
「では、イシュトールとユーリカ、二人をお願いね」
「はい、わかりました」
「あなた達も、あまりはしゃぎ過ぎないようにね」
そしてまた、はいっと、全員から、お行儀良い返事が返って来た。
「では、楽しんでいってらっしゃい」
その言葉を聞くとすぐに、五人の少年達が走り出した。
「おいっ、まずは、武器屋から――」
「次は――」
それで、アッと言う間に、五人の少年の姿が、その場から消え去っていく。
どんなに大人びた行動をしていても、まだまだ、遊び盛りの子供達なのだ。
王都にやって来て、今日は、一日休暇で自由行動だ。
張り切らないわけがない。
「それでは、失礼いたしますね」
「ええ、いってらっしゃい」
それで、オルガとアーシュリンも、いそいそと、その場を去っていく。その手の中には、しっかりと、“王都マップ”が握られて。
それで、イシュトールとユーリカが護衛についているので、二人が買い物に出かけても、左程、問題はみられないだろう。
「賑やかですね」
「ええ、せっかく、隣国の王都に来ているのですもの。皆、張り切っていることでしょう」
「では、ご令嬢は、どちらから始めますか?」
「そう、ですわねえ……」
うーんと、セシルは、頼まれたお土産品を、頭の中で整理してみる。
「まずは、生地専門店などを、見て回りたいですわ」
「生地、専門店、ですか?」
「ええ。お針子達から、アトレシア大王国の流行の生地を買ってきて欲しい、と頼まれましたので」
「そうでしたか。生地店は――」
そう言った専門的なお店は、ギルバートも知らない。
だが、貴族がよく贔屓にしているような店が並ぶ場所は、知っている。
「生地店の場所は分かりませんが、ドレスを売っているブティックや、洋服店などが並ぶ区画から始めてみては、いかがでしょうか?」
「ええ。では、お願いいたしますね」
「わかりました。では、こちらへ」
朝食を済ませてからすぐに王宮を離れ、王都にやって来た一同。
王都では、もう、お店などが開いていたが、それでも、現代で言えば、まだ通勤時間当たりだ。
それでも、すでに、通りは人込みで溢れていて、そこらで朝の活動が始まり、賑わいだしていた。
前回は、ギルバートの好意で王都の観光をすることができたセシルは、ギルバートに紹介してもらったお洒落なお店で、色々なお土産を買うことができた。
今日は、まず、頼まれたお土産などを探して、さっさと買い物を済ませてしまいましょう。
アトレシア大王国には一月近く滞在する。その間、きっと、次にも王都にやって来られる機会があるだろうから、今日は、まず、お土産の買い物に専念するべし。
そんな意気込みを持って、ギルバートに案内されながら、少し高級なお店が並ぶ通りにやって来ていた。
「このお店は――たぶん、生地を売っているお店だと思います」
ちらりと、壁にかかっているお店のロゴに、その飾りを見上げながら、一応、確認の為、ギルバートがお店のドアを引いてみる。
チラッと、一目見た感じでは、生地店であるのは間違いないようだった。
それで、今度はきちんとドアを開けるように、ギルバートがドアを開いていた。
その音と気配で、棚の整理をしていた女性が、チラッと、ドアに視線を向けた。
入って来た人物は――人物が着ている騎士団の制服を見て、女性の瞳が驚いたように見開かれていた。
そして、騎士のすぐ後ろからも、また誰かが入って来る。
パっと、一番最初に目に入って来たのは、キラキラと光る銀髪だった。
そして、女性が黙って観察している前で、男装した女性が入って来て、その姿を見て、ほんの一瞬だったが、嫌そうに顔をしかめる。
だが、その女性は二人の騎士を引き連れているだけに、ただの平民、というはずがない。
そこまでを即座に計算して、店にいた女性が友好的な微笑みを浮かべ、お客様を出迎える。
「ようこそお越しくださいました」
銀髪の女性はまだ若く、男装している点を覗けば――王国内でも稀に見ない、儚げな美女である。
セシル達を出迎えた女性は、このお店のオーナーである。
本来なら、見知りもしない貴族や、ただの平民は、お店にやって来ても、あまり相手にしない(貴族意識が強い)オーナーだったが、今日は、まあ、特別である。
ただの貴族が、王国騎士団の騎士の護衛などつけないだろう。
変な格好をしていても、上客にならないとは言えない。
「わたしは、このお店のオーナーをしております。今日は、なにかお探しでしょうか?」
「ええ。いい布地がないか、店内を見させてもらってもいいですか?」
「もちろんでございます」
承諾はもらったので、たくさんの生地が並べられている棚に、セシルは近寄ってみた。
床下から天井程までの高さもある棚が並んでいて、その場所に色取り取りの生地が置かれている。
大きな木箱には、生地の筒が入っていても、その箱が店の邪魔になっているのでもない。
店内はかなり整頓されていて、見た目も、置かれている生地の配分も、とても整然としている感じに見受けたものだ。
澄ました顔のオーナーだが、たぶん、それだけの自負を持って、お店を経営しているのだろう。
セシルは、棚に入っている布地の筒を少し引っ張り出してみて、その布の感触、染具合、色具合、刺繍の模様、布の強さなど、手触りの感触で確かめて行く。
ああ、上質の布地を扱っているお店のようだ。
きっと、貴族内でも、高位貴族を相手にするお店なのではないだろうか。
そうなると、ただ、お店に立ち寄っただけのセシルなど、普段なら、相手にもされていなかったことだろう。
ただ、今日は、セシルの付き人として、王国騎士団の制服を着たギルバートとクリストフが一緒だったから、大目に見て、セシルが店内をうろつくのを許した、というところか。
それでも、文句を言わないのなら、セシルもここではお客である。
アトレシア大王国は大国だ。その王国の王都は、たくさんの人でごった返していて、賑やかだ。
「お昼なども、それぞれ個人で決めましょう。私は、お土産などの買い物を見て回りますから、一応――三時頃? もう一度、ここで落ち合いましょうか?」
はいっと、全員から、お行儀のよい返事が返って来た。
「では、イシュトールとユーリカ、二人をお願いね」
「はい、わかりました」
「あなた達も、あまりはしゃぎ過ぎないようにね」
そしてまた、はいっと、全員から、お行儀良い返事が返って来た。
「では、楽しんでいってらっしゃい」
その言葉を聞くとすぐに、五人の少年達が走り出した。
「おいっ、まずは、武器屋から――」
「次は――」
それで、アッと言う間に、五人の少年の姿が、その場から消え去っていく。
どんなに大人びた行動をしていても、まだまだ、遊び盛りの子供達なのだ。
王都にやって来て、今日は、一日休暇で自由行動だ。
張り切らないわけがない。
「それでは、失礼いたしますね」
「ええ、いってらっしゃい」
それで、オルガとアーシュリンも、いそいそと、その場を去っていく。その手の中には、しっかりと、“王都マップ”が握られて。
それで、イシュトールとユーリカが護衛についているので、二人が買い物に出かけても、左程、問題はみられないだろう。
「賑やかですね」
「ええ、せっかく、隣国の王都に来ているのですもの。皆、張り切っていることでしょう」
「では、ご令嬢は、どちらから始めますか?」
「そう、ですわねえ……」
うーんと、セシルは、頼まれたお土産品を、頭の中で整理してみる。
「まずは、生地専門店などを、見て回りたいですわ」
「生地、専門店、ですか?」
「ええ。お針子達から、アトレシア大王国の流行の生地を買ってきて欲しい、と頼まれましたので」
「そうでしたか。生地店は――」
そう言った専門的なお店は、ギルバートも知らない。
だが、貴族がよく贔屓にしているような店が並ぶ場所は、知っている。
「生地店の場所は分かりませんが、ドレスを売っているブティックや、洋服店などが並ぶ区画から始めてみては、いかがでしょうか?」
「ええ。では、お願いいたしますね」
「わかりました。では、こちらへ」
朝食を済ませてからすぐに王宮を離れ、王都にやって来た一同。
王都では、もう、お店などが開いていたが、それでも、現代で言えば、まだ通勤時間当たりだ。
それでも、すでに、通りは人込みで溢れていて、そこらで朝の活動が始まり、賑わいだしていた。
前回は、ギルバートの好意で王都の観光をすることができたセシルは、ギルバートに紹介してもらったお洒落なお店で、色々なお土産を買うことができた。
今日は、まず、頼まれたお土産などを探して、さっさと買い物を済ませてしまいましょう。
アトレシア大王国には一月近く滞在する。その間、きっと、次にも王都にやって来られる機会があるだろうから、今日は、まず、お土産の買い物に専念するべし。
そんな意気込みを持って、ギルバートに案内されながら、少し高級なお店が並ぶ通りにやって来ていた。
「このお店は――たぶん、生地を売っているお店だと思います」
ちらりと、壁にかかっているお店のロゴに、その飾りを見上げながら、一応、確認の為、ギルバートがお店のドアを引いてみる。
チラッと、一目見た感じでは、生地店であるのは間違いないようだった。
それで、今度はきちんとドアを開けるように、ギルバートがドアを開いていた。
その音と気配で、棚の整理をしていた女性が、チラッと、ドアに視線を向けた。
入って来た人物は――人物が着ている騎士団の制服を見て、女性の瞳が驚いたように見開かれていた。
そして、騎士のすぐ後ろからも、また誰かが入って来る。
パっと、一番最初に目に入って来たのは、キラキラと光る銀髪だった。
そして、女性が黙って観察している前で、男装した女性が入って来て、その姿を見て、ほんの一瞬だったが、嫌そうに顔をしかめる。
だが、その女性は二人の騎士を引き連れているだけに、ただの平民、というはずがない。
そこまでを即座に計算して、店にいた女性が友好的な微笑みを浮かべ、お客様を出迎える。
「ようこそお越しくださいました」
銀髪の女性はまだ若く、男装している点を覗けば――王国内でも稀に見ない、儚げな美女である。
セシル達を出迎えた女性は、このお店のオーナーである。
本来なら、見知りもしない貴族や、ただの平民は、お店にやって来ても、あまり相手にしない(貴族意識が強い)オーナーだったが、今日は、まあ、特別である。
ただの貴族が、王国騎士団の騎士の護衛などつけないだろう。
変な格好をしていても、上客にならないとは言えない。
「わたしは、このお店のオーナーをしております。今日は、なにかお探しでしょうか?」
「ええ。いい布地がないか、店内を見させてもらってもいいですか?」
「もちろんでございます」
承諾はもらったので、たくさんの生地が並べられている棚に、セシルは近寄ってみた。
床下から天井程までの高さもある棚が並んでいて、その場所に色取り取りの生地が置かれている。
大きな木箱には、生地の筒が入っていても、その箱が店の邪魔になっているのでもない。
店内はかなり整頓されていて、見た目も、置かれている生地の配分も、とても整然としている感じに見受けたものだ。
澄ました顔のオーナーだが、たぶん、それだけの自負を持って、お店を経営しているのだろう。
セシルは、棚に入っている布地の筒を少し引っ張り出してみて、その布の感触、染具合、色具合、刺繍の模様、布の強さなど、手触りの感触で確かめて行く。
ああ、上質の布地を扱っているお店のようだ。
きっと、貴族内でも、高位貴族を相手にするお店なのではないだろうか。
そうなると、ただ、お店に立ち寄っただけのセシルなど、普段なら、相手にもされていなかったことだろう。
ただ、今日は、セシルの付き人として、王国騎士団の制服を着たギルバートとクリストフが一緒だったから、大目に見て、セシルが店内をうろつくのを許した、というところか。
それでも、文句を言わないのなら、セシルもここではお客である。

