それで、オルガがやって来るので、アーシュリンも一緒について来ている。

 移動を簡単にしたいので、今回は、馬車は避け、自分達の荷物を乗せられるだけの荷馬車を引いて、残りは全員騎馬である。

 荷馬車と言っても、きちんと、旅行や移動用の木箱が乗せられることができる荷台で(この世界、スーツケースがないから)、きちんと装飾されて、ヘルバート伯爵家の紋章も入っている。

 やはり、王城に登上するのに、小汚い荷馬車を持ち込んでくることもできやしない。

 ギルバートとクリストフが一緒だったので、セシルを任せ、荷物を宿舎内に運ぶ時は、男手でイシュトールもユーリカも、子供達の手伝いをした。

 オルガとアーシュリンは、まず、セシルの部屋を確認し、整えることに専念している。

 ギルバートは、セシル達の為に、寝具もきちんと用意してくれたので、特別、セシルの部屋を整える必要もない。

 それでも、侍女二人の仕事を(一応) 邪魔しないセシルだった。

 それから、ギルバートは全員を連れて、更に敷地内の案内をしてくれ、水場や訓練場所、食堂など、まず簡単な説明を終えていた。

 ギルバートやクリストフが付き添えない時は、事情を知っている騎士が付き添うことになっているらしいので、食堂などの出入りでも、セシル達は好き勝手に移動して良い、と言われた。

「副団長様、この度は、こちら側の我儘(わがまま)を押し付けてしまったような形になってしまいまして、申し訳ございません」

 少し早めの時間だったが、一行は、昼食を取りに、宿舎の近くの食堂にやって来た。
 大きな食堂である。

 木の長いテーブルが続けておかれ、それが何列もある。木のベンチも長く、共同テーブルが並んでいた。

 一見して見たら、寄宿舎などのダイニングホールを思わせる造りだった。

 こんなに大きな食堂なのに、この食堂は第三騎士団の宿舎側の食堂なので、余程のことがない限り他の隊とは混ざらず、ほとんどが第三騎士団の騎士で埋め尽くされているという。

 他の騎士団も同じで、宿舎側に彼ら用の食堂がある。

 さすが、大王国。
 食堂一つでも、スケールが違うなんて。

 実は、全員、一同揃って、「すごいぃ……!」 と感心していたのは、言うまでもない。

 セシルだって、こんな風に、他国の、他人の場所で、誰かに給仕された食事を取るのは初めてである。

 トレーに乗せられた食事を運び、テーブルに着いて、セシルも子供達も、密かに初体験をエンジョイしている。

「そのことは、どうか、お気になさらないでください。王都内と王城での行き来も大変になりますし、他国からのゲストであっても、王城の出入りも大変になりますから」

 毎回、毎回、セシル達はきちんと検問所でチェックされる羽目になるだろう。なにしろ、王城への出入りだから。

「私達のせいで……もしかして、他の騎士達の方に迷惑がかかってしまったなど……?」
「そのことも、気になさらないでください。問題ではありませんから」

 にこやかで、爽やかなギルバートの笑みは崩れない。

 その笑みの後ろで、実際に、ギルバートの言葉を信用してよいのかどうか、セシルも考えものだ。

 セシル達のせいで、自分達の部屋から追い出された騎士達がいた場合、相手の方だって、いい気分はしないだろう。

 これから、一月、セシル達と顔を合わせることになるので、セシル達を見る度に、腹立たしく感じてしまうかもしれない。

 ただ、実際のところ、セシルの懸念は、そんなに問題ではなかったのだ。

 宿舎だって、空き部屋はある。全部屋が埋まっているのではない。

 だから、一月だけ、セシル達が滞在する部屋にいる騎士達を、何人か移動させただけなのだ。

 上官からの命令だったので、移動を課された騎士達も、


「まあ仕方ないか」


程度で、簡単に部屋を移動している。

 子供達は、今回の合同訓練をとても楽しみにしている。こんな風に、長期滞在での訓練など、初めてだ。

 これは、現代で行ったら、修学旅行、兼、研修旅行、のようなものかしら?

 だから、子供達だって、顔に出さないようにしているが、かなり浮かれているのは、セシルだってすぐに気がついていた。

 セシルも期待しているだけに、ウキウキと楽しみである。

「昼食を終えましたら、これからの訓練の予定を確認したいので、少し、お時間をいただけないでしょうか?」

「わかりました。私としても、第三騎士団の団長様にも、ご挨拶をさせていただきたいのですが?」
「わかりました。団長に、そのように伝えておきます」

 第三騎士団の団長とは、去年、顔を合わせたが、言葉を交わしたこともない。

 なにしろ、事情が事情なだけに、団長の方だって、セシルに望んで会いたいかどうかは、かなり疑問である。

 ただの社交辞令の挨拶となる可能性が大だが、それでも、アトレシア大王国にセシル達を招待してくれただけに、団長への挨拶も、ちゃんと済ませておきたいセシルだった。




 騎士団の訓練所には、数列に並んだ王国騎士団の騎士達が、一糸乱れずに起立していた。

 午後の訓練には、二つの小隊の騎士達が集められているらしく、四十人近くの騎士達が勢揃いしていた。

「こちらは、隣国ノーウッド王国からいらしたヘルバート伯爵令嬢だ。そして、これから一月(ひとつき)、合同訓練で一緒になる、領地の騎士見習いだ」

 セシルの横に、一列に並んだ子供達。

 ズボン姿のセシルに面食らってショックを受けている騎士達なのに、更に、合同訓練が子供と一緒だったなどという事実を発見して、あまりに複雑そうな表情を浮かべている一同。

 その程度の反応は予想していたので、セシルも子供達も驚いていない。

「皆様、これから一月(ひとつき)、よろしくお願いしますね?」

 きまずい雰囲気が降りている中、セシルがその場に揃っている騎士達に挨拶を済ます。

 これからどう転ぼうが、合同訓練開始である。