新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

だけど、 そんな事……私から求めるなんて変だよね? でも……もしかしたら、 高橋さんは我慢してくれているのかもしれない。 そうだとしたら、 私から求めればいいのかな?
まゆみが、 言っていた言葉を思い出す。
【 好きだったら……旅行に行ったら、 毎晩でも求めてくるのが男だよ!】

今夜も夕食の後片付けをして、 コーヒーを飲んで暫くすると、 高橋さんが今日何度目かのシャワーを浴びて出てきた。
「お先に」
そして、 暗黙の了解で私もシャワーを浴びに行く。 ハワイに来て、 4日目の夜。 シャワーを浴びて、 きっと今夜は……とか、 やっぱり今夜も……とか、 いろんな思いを張り巡らせながら、 髪を乾かしてリビングに戻った。
「さて、 そろそろ寝るか?」
「はい」
高橋さんがソファーから立ち上がり、 空いた缶ビールをキッチンに持って行き戻ってくると、 ソファーに座っていた私の顔を覗き込んだ。
「どうかした?」
「あっ……いえ、 何でもないです」
すると、 高橋さんは口元を少しだけ吊り上げたが、 スッと私の右手の前に左手を差し出して私の右手を握ると、 そのまま引っ張ってソファーから立たせ、 寝室へと歩き出した。
歩きながら、 高橋さんの後ろ姿を見つめた。
その広い背中を見ていると、 言い表せない何とも言えない気持ちになってしまった。
ベッドにあっという間に辿り着き、 横になって毛布を掛けてもらいながら、 高橋さんも隣りに横になり、 脇を開けて私にそこに来るよう誘う。
今日も、 このまま寝てしまうつもりなのかな? そう思ったら高橋さんの脇には入れなくなって、 ジッとしていた。
「ほら!」
高橋さんの右手が私の右肩を引き寄せようとしたが、 力を込めて抵抗した。
「何? さっきから、 どうかしたのか?」
高橋さんが体を起こすと、 真上から私の顔を覗き込んだ。
「高橋さん……」
勇気を出して言おうと思うと目を瞑ってしまい、 無意識のうちに大きく深呼吸をしていた。
高橋さんは、 そんな私の様子を黙って見ている。
「私……」
ああ。 駄目……やっぱり恥ずかしくて、 言い出せない。