新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

「まぁ、　そんなにむくれるなって。　そのかわり、　朝食作っておいたから」
「ええっ！　本当ですかぁ？」
嬉しさと驚きが入り交じって飛び起きたが、　その後すぐに我に帰って自己嫌悪に陥り、　ベッドの上で背中を丸めて俯いた。
いつまでも寝ていて、　朝食の準備も高橋さんにやらせてしまった。
「ご、　ごめんなさい。　明日から、　ちゃんと起きますから」
「ハハッ……。　別に気にするな。　それより腹減ったから、　早く着替えてメシにしよう」
「はい」
そう言うと、　高橋さんは寝室から出て行った。
高橋さんの作ってくれた朝食は、　ハムエッグにサラダとヨーグルト。　そして、　マンゴーフルーツ、　フランスパンの上にシーチキンをのせたカナッペだった。
「トーストも出来るけど、　どうする？」
「いえ、　これで十分です」
キッチン脇の窓から見える海を見ながら食べる、　高橋さんとの朝食。　贅沢で、　これ以上の幸せはない。　食後は、　ラナイに出てコナコーヒーを飲みながら他愛のない話をしていた。
殺伐とした都会を離れ、　海を見ながらゆっくりと時間か過ぎていく。　時間を気にする必要もなく、　日にちも曜日も忘れてしまいそうな感覚に陥りそうだ。　そして私の胸元には、　海の色と同じ石のペンダント。　このまま……いつまでも、　こうしていたい……高橋さん。　それは、　我儘ですか？
そんな事を思いながら、　高橋さんの顔を見た。
その穏やかで優しい瞳の奥に、　秘めた強さ。　心の奥を覗く事は出来ないけれど、　願わくば……ほんの少しだけでも高橋さんの心の中を覗きたい。　ほんの少しだけで良いから……怖さもあるけれど、　その胸の内を知りたかった。　高橋さん……。
ずっと、　ずっとその瞳に映っていた人の残像は、　消えましたか？　私は、　高橋さんのその瞳の奥に映っていますか？　私は、　瞳を閉じれば貴方の姿がすぐに目に浮かびます。　貴方は瞳を閉じたら、　たまには私の姿がありますか？　もし、　少しでもあるとしたら……いつまでも、　そこにいられますように。