新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

心が悲鳴をあげて、 何だか上手く息が出来ない。 胸が苦しくて震えが止まらない。
それでも視線は高橋さんから外せなくて、 ジッと見つめていた。 早く、 何か言わなきゃ。 言わないと、 伝わらない。 でも……なんて言っていいのか、 上手い言葉が見つからない。 誤魔化しは、 効かない人。 高橋さんは、 いつもそう。 向き合う時間を、 大切にしないと……きちんと真っ直ぐに高橋さんを見て、 正直に話さないと見透かされる。 小手先だけの言い訳は、 通用しない。 おざなりな言葉は、 絶対に避けないと。
「どうした?」
呼吸も荒くなってきて、 肩で息をしている感じだった。
落ち着け! 
胸に右手をあてて、 必死に深呼吸する。
「高橋さん。 私……帰りたくな……い……本当は……帰りたくないです。 ごめんなさい……高橋さんを困らせてしまって、 私……」
今の自分の気持ちを、 正直に伝えた。 涙を見せたくなくて、 ずっと首を横に振っていた。
「フッ……よく言えました。 いい子」
エッ……。
俯きながら首を振っていたが、 その言葉に驚いて顔をあげた途端、 高橋さんに抱きしめられた。
「お前は、 素直なのが一番。 余計な事は、 考えるな。 俺の事を考えてくれるのは有難いが……。 俺は、 俺の意思で煙草を止めたんだ。 誰にも、 左右されていない。 それに……」
高橋さんが、 耳元で囁いた。
「そもそも、 この旅行の最初の目的は?」
「えっ? あ、 あの、 静養……です」
高橋さんが、 私のためにって計画してくれたんだった。