新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

「高橋さんは、　いつも……いつもそうやって自分を犠牲にして……私のことを尊重してくれますよね。　でも……でも、　私にとっては……高橋さんが無理をしてるようで……。　このままだと、　いつか高橋さん自身がそれを重荷に感じて、　耐えられなくなってしまうんじゃないかと思えて仕方がないんです。　よく言いますよね……我慢ばかりしてると、　いつか爆発するって。　私は……私は、　それにいつも怯えていなければならないんですか？　だから、　高橋さんが私のために何かを犠牲にするのは、　耐えられないんです」
高橋さんは、　黙ったままジッと目を瞑っている。
そして、　暫く沈黙が続いた。
「何で、　そういう風に考えるかな？」
エッ……。
下を向いていたが、　その一言に顔をあげて高橋さんを見た。
「俺が、　それでいいと思ってやっている事なんだから。　何も、　お前が気にしなくてもいいだろ？」
「高橋さんには、　きっとわからないんです。　私は、　何も出来なくて……いつも高橋さんにおんぶに抱っこで……。　その上、　私のせいで高橋さんの趣味や嗜好品までも奪っているようで……ﾋｸｯ……それが耐えられないんです……ﾋｸｯ……ﾋｸｯ……」
「……」
居たたまれなくなって、　勢いよくソファーから立ち上がり、　小走りで寝室に入ってドアを閉めた。　そして、　思いっきりベッドにダイブした。
堪えてきたものが、　一気にベッドのシーツの中へと溢れ出す。
高橋さん……わかってくれてない。
知らず知らずのうちに、　そうやって高橋さんのすべてを奪っていくような気がして……そんな高橋さんが、　それに耐えきれなくなって……いつか離れていってしまうようで怖い。　こんな風に、　いつから思うようになっていたのかな？　自分でも、　ただ驚くばかりだった。　それに……あんな事を、　面と向かって高橋さんに言ってしまった。　どうかしてる、　私……。　でも、　この思いはこちらに来てから、　顕著に感じられるようになっていた。　お昼の煙草の時からかな？
高橋さんの煙草を吸う姿が、　とても好きだった。　そして、　高橋さんは煙草が大好きだった事も、　よく知っていた。　でも、　それを形はどうあれ……私が奪ってしまうんだ。　まだ着いて1日目なのに、　気まずくなっちゃった。
寝ている体勢の向きを変えようとして、　首につけていたネックレスが動いて音を奏でた。　これも……きっと高いものなんだと思う。　貰って、　嬉しいけど……何だかとても気が引ける。　私が、　高橋さんにプレゼントしたものなんて、　お誕生日の安物のキーケースぐらいだし。