新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

高橋さんが、 目を丸くしながら私を見た。
「お前は、 どうする?」
「えっ? わ、 私は、 このままチケットチェンジして、 日本に先に帰りますから」
いきなり聞き返されて、 焦ってしまった。
「フッ……。 このゴールデンウィークに、 空席なんてあるわけないだろ? それに、 同じ事が俺にも言える。 国内線で、 マウイに行けたとしてもだ。 泊まるホテルが、 ないだろう」
「そ、 それは、 明良さんと仁さんのお部屋に、 エクストラを入れてもらえば……」
「はぁ……」
高橋さんが、 またもや大きな溜息をついた。 煙草を吸えないからかな。
「何で、 そんな事に拘ってるんだ?」
高橋さんは、 私が目覚めた時と同じようにソファーの背もたれに左手で肘枕をしながら私に聞いた。
「私……嫌なんです。 高橋さんが、 そうやって我慢したりしているところを見るのがとても辛いんです。 心苦しいと言うか……。 それに、 せっかくこっちに来てみんなでダイビングが出来るのに、 私のせいで……というか、 私が居るからダイビングも出来ないのかと思うと、 凄くそれが嫌なんです。 だから、 明良さん達と一緒にマウイに行って下さい。 今から手配すれば、 まだ間に合いますって」
先ほどとは違い、 今回は私も引けないから高橋さんをジッと見つめていた。
ドキドキして、 脚がガクガク震えそうだったけど、 必死にそれを両手で押さえて誤魔化している。
「俺の意志だ。 煙草を止めようと思ったのも、 マウイに行かないのもだ」
何で? どうしていつも高橋さんは、 何でも我慢しようとするの?