新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

「あっ……あの、　さよなら」
手を振ったと思ったら、　智子さんはそのまま走り出して明良さん達のコテージに入っていって、　そして暫くすると車のエンジンの掛かる音がして、　そのまま走り去っていった。
きっと、　今のが智子さんの車だったのかな？
台風の目のような人だった。
それにしても……。
隣りに居た仁さんに、　聞いてみる。
「仁さん。　明日、　８時に空港って……」
さっき、　智子さんとの会話に出ていた事が、　気になった。
「ああ。　俺達、　明日から智子と智子の旦那と４人でマウイに行くんだよ」
「ええっ？」
てっきり、　ずっと一緒にみんなでいられるとばかり思っていたので、　思わず大きな声を出してしまった。
「どうしたのぉ？　仁に、　なんかされたぁ？」
すると、　ちょうど海からあがってきた、　高橋さんと明良さんが近づいてきた。
「はぁ？　何もしちゃいねぇよ！　ねっ？」
「あ、　あの……マウイに行くって……」
そんな明良さんの冗談よりも、　仁さんの言ったひと言の方が気になって仕方ない。
「ああ。　その話ね」
明良さんは、　納得したように頷いた。
「そうなんだよ。　陽子ちゃんと会えなくなるのは寂しいんだけど、　仁と俺は智子夫妻と4人で、　明日からマウイに行ってダイビングぅ」
「えっ？　それじゃ、　高橋さんは？　高橋さんも、　ダイビングされたいんじゃないんですか？」
慌てて高橋さんの方を見たが、　明良さんが私の方を見て笑っている。
「貴博は……ねぇ。　ダイビングなんかよりぃ、　陽子ちゃんと、　さっきみたいに2人っきりの方が楽しいんだって。　いろいろ……あれこれ出来るから」
い、　嫌だ。　明良さんったら、　何てこと言うの。　恥ずかしくて、　高橋さんの顔をまともに見られない。