新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

「あのさ……」
智子さんが、 飲み終わるか終わらないかのうちに、 ペットボトルを持ったまま話し掛けてきた。
「は、 はい」
何か、 智子さんと居ると緊張してしまう。
「私さぁ……大学時代、 貴博が好きだったんだよね」
「えっ?」
唐突に言われたその言葉に、 膝の上に置いていた本を落としそうになって、 慌てて左手で膝に押し当てた。
「あの3人は、 付属からだったけど私は大学からだったから、 あの3人の存在は知らなくて……。 高校の頃から相当モテていた3人だったって、 入学してから知ったのよ。 それで、 たまたま貴博と同じクラスになってさ。 御多分に洩れず、 私も一目惚れだったってわけよ」
そうだったんだ。 と、 言うことは……同じクラスって事は、 きっと同じ学部だったという事だよね?
「でもさぁ、 その頃はまだウブだったから。 なかなか、 告白出来なかったのよ」
智子さんから、 告白しようとしていたなんて……凄いな。
「そのうち、 貴博に年上の綺麗な彼女が出来ちゃって……」
ああ……。
ミサさんの事だ。
「もう、 彼女一筋だったんじゃないのかな。 大学にも、 あまり顔を出さなくなっちゃってさ。 でも……ある日。 貴博が、 その彼女にふられたって噂で聞いてね。 これは、 チャンスだと思ったのよ」
ミサさんと別れた時……そう、 それはミサさんがタカヒロ君を妊娠して……そして、 お互いにまだ好きだったのに、 高橋さんとミサさんは別れを選んだ。
病院での出来事が思い出されて、 心が軋んで悲鳴をあげていた。