新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

「陽子ちゃんと付き合うようになってから、 だんだん煙草を吸う本数も減っていったんだけど、 陽子ちゃんが入院してからは、 思うところがあったみたいで、 殆ど吸っていなかったんだよ」
「そうだったんですか……。 でも、 高橋さんは何故……好きじゃない煙草を吸っていたんですか?」
どうしてなんだろう? 好きじゃなかったら、 何も吸わなくても……。
「意地……かな?」
「意地……ですか?」
「やめるきっかけを失って、 それでいて人生、 若い頃は世捨て人みたいになっていた時期があったから」
ミサさんと別れてから、 高橋さんは一時期そんな感じになっていたと聞いたことがある。
「だから、 何となく吹っ切れず。 だからと言って、 若い頃のようには振る舞えない。 社会人になって、 多忙な日々を送っていたから、 そんなことを考えている余裕もなかったといえば、 それまでだけど……。 でも、 その忙しさというか……わざと、 その忙しい毎日を送る流れに身を任せていたのかもしれない。 自分の人生を見つめ直しながら、 俺が知らない部分の葛藤もあったのかも。 あくまで憶測の域だけどね。 でも……」
そう言うと、 仁さんは一瞬空を見上げた。
「投げやりだった貴博を、 此処まで軌道修正出来たのは、 陽子ちゃんのお陰だね」
「えっ?」