新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

実は、 航空会社に勤めておきながら、 あまり飛行機が得意ではなかった。 よく言う気圧の関係から機上で飲むビールは、 あまり美味しく感じられないという人も多いと聞くが、 それと同じような事なのかもしれない。食事は、 高橋さんと乗っていたニューヨーク便はビジネスクラスだったし、 美味しかったんだと思うけれど必ず残してしまっていた。 お腹は空いている感じはしていたが、 何となくお腹が張ってしまい、 思うように食べられずにいた。
「高橋さん。 何で、 知っていらっしゃるんですか? でも、 今回は絶対食べます。 だって、 ファーストクラスなんて初めてですし、 最初で最後かもしれませんから」
「フッ……。 現金な奴め! そんな奴には、 こうしてやる」
えっ?
「必殺! 貴ちゃんグリグリ梅干しの刑」
はい?
「あっ……ちょっ……ちょっと、 た、 高橋さん。 い、 痛い。 痛い! や、 やめて下さい。 ひぃ! いったぁぁいぃ」
いきなり高橋さんが、 私の両こめかみに握り拳を押しつけ、 グリグリと回した。
「ハハッ……これに懲りて、 はしゃがないで寝る事。 いいな?」
「はぁい」
「妙に素直で、 怖いな」
だって、 ファーストクラスですよ? 高橋さんは、 出張や仕事などで何度も乗ったことがあるだろうけれど、 身分不相応な私は夢のような気分です。 2度と、 ファーストクラスなんて乗れないかもしれないですから。 それは、 もうはしゃがずにはいられません。 食事だって、 たっぷり堪能したいです。 何度も言うようですが、 ファーストクラスですよ? それも、 高橋さんと一緒に乗れるなんて……嬉し過ぎる。
恥ずかしくて、 言葉にできなかったけれど、 私の態度で分かったのか。 高橋さんは、 ずっと私の行動を見ながら笑っている。
夢のようなファーストクラスに乗せてもらって、 大はしゃぎしていた6時間半のフライト中、 何度も 『 寝ろ! 』 と高橋さんに言われたのに、 まるで子供のようにキョロキョロしながら落ち着かず、 映画を見たりシートをフルフラットにしてまるでベッドのようだと驚いて大喜びしたり、 大興奮して喉が渇いて何度も大好きなグアバジュースをお代わりして、 出された食事もいつもよりは食べていた。
そんな私を見ながら、 高橋さんはひたすら 『 馬子もファーストクラスだな 』 などと、 訳のわからない事を言いながら笑っていた。