新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

翌日から、 また坂本さんに引き継ぎを高橋さんは始めていたが、 坂本さんはまだ実感が湧いていないのか、 一向に何日経っても、 あまり真剣には聞こうとしていない感じがみられた。 月末で忙しい中、 高橋さんも引き継ぎしながら日常業務に追われているのに、 当の坂本さんは、 同期の人と電話で喋っていたり、 健康診断に行くと言い出して、 忙しい月末30日の金曜日、 立ち寄り不帰で会社には1度も顔を出さなかった。 月曜日で引き継ぎも終わりなのに、 大丈夫なんだろうか。 こちらが、 心配になってしまう。 そんな坂本さんの態度を、 高橋さんは咎めるわけでもなく、 中原さんも静観しているだけだった。
「経理の高橋ですが、 社長はお席に今いらっしゃいますか?」
高橋さんの、 流麗な言葉遣い……。
そう言えば、 最近毎日のように高橋さんは、 社長室に電話をしている。 忙しい中でも、 社長室によく行くし……社長と、 何か大事な用件を話しているのだろうか。
「はい。 そうですか。 それでは、 今から伺いますので、 よろしくお願い致します」
電話を置くと、 高橋さんはジャケットを羽織り、 社長室に行くと言って事務所を後にした。
今日も、 行くんだ。
そう思いながら、 中原さんを見ると目が合ったが、 お互い忙しいのでそのまままた書類に目を通し始めた。
暫くして、 高橋さんが社長室から戻って来ると、 中原さんを呼んだ。
「矢島さん。 中原と会議室に居るから、 何かあったら呼んで」
「はい」