新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

高橋さんが、 唐突に言い出したところで、 信号が青に変わってしまった。
「あ、 あの……それって……スケジュールからいって、 8月のお盆明けに行くって仰っていた、 引き継ぎの件が早まったんですか? でも、 それだったら私が何も一緒に……」
「仕事、 半分。 バケーション半分かな」
エッ……?
「す、 すみません。 仰っている意味が、 よくわからないです」
仕事なのは高橋さんで、 バケーションは……私?
あっ! えっ? でも、 そうだとしたら旅費とか、 ホテルとか、 どうするの?
「だぁかぁらぁ。 ニューヨークとボストンの支社に少し顔出しに行ったあと、 それから……かおりが手配してくれいたフラットの場所の確認に行く。 2日もあれば、 終わる予定だ」
2日もあれば、 終わる予定って……。
「あの……で、 でも、 何で私も一緒にニューヨークに? それに、 高橋さんがお仕事している間、 私はどうしていればいいんですか?」
素朴な疑問が、 生じてしまう。
「ん? かおりが、 子守してくれるさ」
「こ、 子守って……」
ひ、 酷い。
「じゃあ、 1人でいられるのか?」
そんな……。
「む、 無理です。 でも、 山本さんだって、 お忙しいと思いますし、 ご都合があるでしょうし……」
「フッ……その心配は、 いらない。 かおりとは、 もう話しは済んでる。 元々、 かおりが一時帰国していた時に、 そんな話しをしていたし。 赴任の前に、 お前をニューヨークに連れて来いって」
山本さん……。
「で、 でも……」
「まだ、 何かあるのか?」
「でも、 そうしたらその間、 中原さんが1人になっちゃいますよね? 大丈夫なんですか? 10日を挟んでいるので、 1人だと結構大変だと思うんですが」
「ハハッ……。 8月は、 そんな忙しくない。 それに、 中原も了解済みだ」
「エッ……そうなんですか?」
あまりにも、 トントン拍子に事が運んでいることに驚いて、 高橋さんを見た。
「心配するな。 大丈夫だ」
「高橋さん……」
何故?