新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

この前、 ランチの時に中原さんと話していた内容からすると、 やはり会計士か税理士の免許を持っている人が会計監査には必要で……けれど、 高橋さんの話によると、 3月と9月の決算月には帰ってくると言っていたところをみると、 そういう畑の人ではない人が来る可能性もあるという事。 本当に、 予知出来ない後任人事だった。
そして、 その人の顔がチラッと見えたと同時に、 高橋さんが会計の席まで戻ってきた、
「俺の後任を紹介する」
中原さんも私も、 椅子から立ち上がった。
「オランダから戻って来る、 坂本さんです」
「坂本です。 よろしくお願いします」
「中原君と、 矢島さんです」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
この人、 何歳ぐらいだろう?
まだ若い気がする。 高橋さんよりは年下かな?
「え~っと、 坂本さんは税理士の免許を持ってるし、 そこら辺は大丈夫だと思うから」
思うからって事は、 高橋さんより年下?

挨拶をしてまた仕事に戻ったが、 高橋さんと坂本さんの引き継ぎがもう始まっていた。
その声を聞いていると、 胸がチクチクと痛んだ。
刻々と迫ってきている……別れの時が……。
いけない! いけない!
そんな事、 考えてちゃダメじゃん。
首を横に振りながら気持ちを奮い立たせ、 書類に目を通していた。
高橋さんと坂本さんとの引き継ぎが始まって、 2日目。 思いがけない事を、 言われてしまった。
「高橋さん。 これ、 捺印急ぎなんでお願い出来ますか?」
「はい。 今押しちゃうから、 貸して」
「ありがとうございます」
何気ない、 いつものやり取りを見ていた坂本さんが、 私に声を掛けた。
「矢島さん」
「あっ、 はい」