新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

流石、 出来る男は違うとつくづく思ってしまう。
船便で送る荷物を先に送りますという総務からの通達に、 高橋さんは何もないと返信していた。 事前に送る荷物は、 航空便の範囲内で収まる身の回りのものだけで、 あとは殆ど手持ちで持って行くと。 3月に、 一時帰国する時にまた夏服は持って行くだろうから、 差し当たっては冬服だけで行けるからと、 言っていたんだとか。
久しぶりに、 まゆみとお茶をしながらそんな話を聞いていた。
「しっかし、 ハイブリッジの頭の構造は、 私にゃ理解出来ないわよ。 何で、 また陽子を置いていくかねぇ……」
まゆみには、 きっと言われると思っていた。
「まあ……2人でよく話し合って出した結論だからさ。 あんまり、 とやかく言いたくはないけれど。 どうも私には、 アヤツの言ってる事は、 詭弁にしか聞こえないんだよねぇ……」
「まゆみ……」
まゆみは、 今回の高橋さんと私が出した結論に、 『 可もなく、 不可もなくだね 』 と、 言った。
結局のところ、 当人同士にしかわからない事だから、 どうこう言いたくても言えないと……。
だけど、 高橋さんの下した結論には、 どうにも解せないとも言っていた。
「でも、 考えようによっちゃ、 好きな人が出来たらさ。 陽子だって、 ハイブリッジに気兼ねなく、 そっちに行かれるんだから。 その点は、 気持ち的に楽で、 良かったよね」
きっと、 まゆみなりの励まし方をしてくれているのが、 よくわかった。 それは、 きっとまゆみも私の性格を知っているからこそ、 この先私がどうなるのかわからないという、 未来について心配してくれているのが、 ひしひしと伝わってきた。

空梅雨だった梅雨も明け、 真夏の太陽が照り始めた7月下旬。 高橋さんの後任の人が取り敢えずの引き継ぎに、 10日間ほどやって来るという事で、 中原さんも私も誰なんだろうと、 緊張していた。
勿論、 高橋さんは、 その人が誰なのかは分かっていたが、 当然教えてくれるはずもなく……。
今日、 その人がやって来るという事だけ、 今朝の朝礼後に知らされたのだった。
社長室から電話が掛かってきて、 高橋さんが向かった。 きっと、 今からその人が来るんだ。 中原さんと思わず目が合って、 お互いきっと同じ事を思っていたんだと思う。 程なくして、 事務所内がざわついてきて何事かと顔を上げると、 高橋さんと一緒に後ろから高橋さんよりは少し背の低い男性が、 こちらに向かって来るのが見えた。
その雰囲気を察知したのか、 中原さんも顔をあげて高橋さんの方を見ている。 だけど高橋さんに隠れてしまっていて、 その人の顔がよく見えない。
誰なんだろう?