新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

「取りあえず、 何ともなくて良かったな」
「はい。 お陰様で、 色々ありがとうございました」
ニッコリ笑って運転席の高橋さんを見ると、 小首を傾げながら笑っている。
な、 何?
「これから毎週末、 陽子ちゃん。 貴ちゃん家に、 お泊まり決定!」
エッ……。
「は、 はい?」
高橋さん。 
いきなり、 何を言い出すのかと思ったら……。
「それじゃ、 早速今日からね」
今日からねって、 そんな満面の笑みで急に言われても……。
「高橋さん。 でも……急にそんな事言われても、 何も持ってきてないし」
「フッ……ちゃんと、 お前の家に寄ってから帰るから安心しろ。 お泊まりセットとやらが、 必要なんだろ?」
うっ。
完全に、 読まれている。
ぎこちなく頷くと、 高橋さんは笑いながら私の家に向かってくれた。
別に、 何をするでもない。 何処に、 行くでもない。
2人だけの空間の中で、 食事をしたりテレビを見たりしているだけだったが、 その時間が今の私にとって、 かけがいのない時間だという事だけは確かだった。
シャワーを浴びて寝るまでのひととき、 ソファーに座って私は本を読み、 高橋さんは隣りでパソコンで仕事をしている。 何も話さなくても、 苦痛にも感じない。
ふと、 高橋さんの横顔に見入っていた。 相変わらず、 綺麗な顔立ちで……。
「何?」
パソコンの画面を見ながら、 高橋さんに不意に声を掛けられて焦ってしまう。
「い、 いえ。 何でもないです」
高橋さんがソファーの背もたれに寄り掛かり、 頭の後ろで両手を組むと、 小首を傾げながらこちらを見た。
「飽きちゃった?」
エッ……。
ああ。 昔も、 こんな事があった気がする。 確か、 出張の時……。
すると、 高橋さんは頭の後ろで組んでいた両手を解き、 背もたれから背中を起こした。
「おいで」
高橋さんは、 私の左手首を引っ張って自分の膝の間に私を入れながら、 後ろから抱きしめた。