新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

少しでも唇を尖らせたりしようものなら、 触れてしまいそうなほど高橋さんの唇が、 私の唇すれすれに近づいていた。
思わず、 枕にグッと頭を押しつける。
「いろんな意味で、 相手に求め過ぎると全てを失ってしまう事がある」
高橋さん……。
高橋さんが、 私の髪を撫でながら言う。
「お前は、 今朝、 具合が悪くて病院に行った。 CT の結果もそうだし、 再来週それで検査する事になっているんだろう?」
確かに、 高橋さんの言っている事は正しい。
だけど……。
「だったら、 その検査の結果が分かるまでは、 大人しくしてないとな」
それは、 そうなんだけど……。
「でも……」
「ん? でも、 何だ?」
うわっ。
ち、 近いって、 高橋さん。 話していると、 本当に唇が触れちゃうんじゃないか
というくらいの距離まで迫っている。
「高橋さん……もう直ぐ遠くに行ってしまから、 私……」
そこまで言い掛けて、 また泣きそうになってしまう。
そんな私を知ってか、 知らずか、 高橋さんはまた頬を撫でてくれている。
「そんな、 直ぐには行かないぞ。 そもそも、 引き継ぎもあるし……多分、 9月の決算締めてからになると思う。 10月の初めぐらいかな。 それに、 まだはっきりとは分からないが、 今の状態で行くと決算毎に3月と9月は帰って来ざるを得ないと思う」
「えっ! 本当ですか? あっ……」
動いた拍子に、 高橋さんの唇に私の唇が触れてしまった。
「何だよ。 いきなりそんな大きな声出したら、 ビックリするだろ?」
「だって、 だって……半年に1回は、 会えるって事ですよね?」
寝たままギュッと拳を握りしめ、 喜びを嚙みしめた。
「全く、 お前とは大人のピロトークも出来ないな」
何か、 酷い言われ方で、 思わず口を尖らせて見せた。
「そのタコスケ唇、 貴ちゃん貰った!」
「エッ……ンッ……ンンッ……」
高橋さんが、 両サイドにある私の手のどちらにも、 指を絡めてくれていた。