新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

「辛いのは、 俺も同じだ」
「高橋さん。 私……」
堰を切ったように、 涙が止まられない。
「泣くな……と言っても、 無理か」
「無理……です」
すると、 高橋さんが私の顎を持ち上げた。
こめかみに流れる、 冷たい涙……。
「じゃあ、 泣きやむ、 お-ま-じ-な-い」
そう言いながら、 私の鼻を高橋さんが左手の人差し指で軽く叩いた。
「ヒクッ……な、 何言ってる……」
唇と唇が、 触れたか触れないかぐらいの一瞬のキスに、 驚いて高橋さんを見た。
「ほら、 泣きやんだ」
グ~ウウウウ……。
ハッ!
その時、 私のお腹がエネルギー切れで悲鳴を上げた。
「えっ! あっ、 あっ……あの、 ちょ、 ちょっと待って。 ひゃあぁぁ」
こんな大事な時に、 いきなりお腹が鳴っちゃったじゃない。 なんて、 タイミングが悪いのよ。 どうか、 高橋さんに聞こえていませんように。 お腹を押さえながら、 恐る恐る高橋さんの顔を、 目だけを動かして見た。 
うわっ!
バッチリ、 目が合ってしまった。
終わった……。
「陽子ちゃ~ん! ひょっとして、 まぁさぁかぁ? このシリアスな場面でねぇ……腹ヘリ-ヘリ-ハラ♪ な~んて事、 ないよねえ? 物凄い怪獣の轟音が今、 聞こえたんだけど?」
悪戯っぽく笑いながら、 高橋さんが私の顔を覗き込む。
「えっ! あっ……いえ……そ、 その……これは、 事故でして……」
「事故? 何の?」
間髪入れずに横目で見ながら問い返され、 高橋さんの顔が迫ってきていて、 焦りまくりながら、 言い訳を考えている。 どうしよう……もう、 誤魔化しようがない。
「フッ……まあ、 やっとお腹が空いたみたいで良かった。 ご飯にするか」
高橋さん……。