新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

「俺自身、 その事を蔑視するつもりもないし、 そんな風に考えてもいなかった。 ただ……」
そう言い掛けた高橋さんが、 左手で私の右手を取ると、 お互いの冷えた指先を温めるようにして、 ギュッと最後に握ってくれた。
「お前の身体の方が、 心配だった」
「えっ?」
妊娠しているかどうかよりも、 私の身体の方が心配って……。
「俺の言った事を、 お前はいつも直球でそれを受け止めるから。 だから受け止めきれずに、 脆く崩れてしまう。 俺は、 それが分かっていたから。 だからアメリカ行きの事も、 直ぐにはお前に言えなかった」
高橋さん……。
「もし、 今回の事でまたお前が身体を壊して入院でもしてしまったら、 俺は……」
そこまで言い掛けて、 高橋さんは頬を伝う涙を拭ってくれた。
「その時は、 会社を辞めるつもりだった。 それは、 お前の妊娠に関わらずな」
「高橋さん……」
そんな大事なことを、 何故そんなに冷静に話せるの? 高橋さんが、 なりたくてなった職業じゃなかったの? それなのに……こんな私のために、 会社を辞めるなんて。
「まあ、 俺の話はまた後でするとして。 今は、 お前の話が先だ。 それで?」
高橋さんが、 あんなに大好きな仕事を辞めるって。 それ原因が、 私だなんて……そんなのって。 私は、 そんなことを望んでなんかいない。 俯きながら、 自分がどうすれば良いのか? 今、 何をすれば高橋さんのためになるのか? よく、 高橋さんが言っている、 今、 自分はどうすれば良いのか? 今、 相手のために何をしたら良いのか? まずは、 それを考えろ……と。 でも、 きっと泣いてしまって、 上手く言葉に出来ない。
「邪念は捨てて、 ちゃんと自分の気持ちを言葉にしないと、 分からない」