新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜

高橋さんが、 リモコンで部屋の電気を消した。
「高橋さん……」
「このほうが、 話しやすいだろう?」
そんなに、 優しく言わないで。
「俺がどうして会計士になったかは、 お前も知ってる通りだ」
昔、 ミサさんの事で……。
「その後、 今の会社に入ったのは、 ライセンスを取って自分の能力を活かしたいというのもあったが、 それと同時に航空会社という事で、 海外赴任が出来るという利点もあったからなんだ」
そうだったんだ。 高橋さんは、 海外に行きたかったんだ。 髙橋さんは、 元々視野の広い人だから……。
「だから、 新入社員の頃から海外赴任の希望を出していて、 会計士の試験に受かった翌年からニューヨーク駐在になった。 その時は、 嬉しかったというより、 やっとスタートラインに立てた感じだった。 その後は、 お前も知ってのとおり。 帰国して、 今の仕事に就いている訳だが、 3月の段階で1度社長から打診があったのも確か。 9月から、 行ってもらえないかと。 しかし、 ちょうどその頃、 子供の事とかも重なって、 社長に返事を少し待ってもらっていた」
「だから、 あの時……異動は、 会計はないって言って下さった時、 少しだけ沈黙したのは……あの時は、 もうわかっていたんですか?」
「そうだ。 フッ……なかなか鋭いな」
「だったら何故……何故、 わかっていたのに、 今まで言ってくれなかったんですか?」
「言ったところで、 どうなる?」
「高橋さん……」
「長い期間、 お前が動揺するだけだろう? だとしたら、 デメリットしかない。 きちんと決まってから、 話した方がいいと思ったからだ」
そんな……。