パティシエ総長と歪な少女




…って、違う違う違う!!

え?え?嘘、私竜司くんの膝に頭のっけて爆睡していたってこと?

それは…めちゃくちゃ恥ずかし…。

顔が熱くなるのを感じる。



「な、なんかごめんね…!」

「いや、俺こそ勝手に悪ぃ。」



なんとなく気まずくてひとつ離れた椅子に座った。

夕暮れ時の教室は赤い光に包まれていて、静かだった。

後夜祭の準備だろうか、中庭が少し騒がしい。

肩にかけられたカーディガンを返すタイミングを見失ってしまい、ぼんやりとただ並んで椅子に座る静寂の時間が流れた。

横目で竜司くんを見ると、竜司くんは本を読んでいた。

ふたりでいるのに、本を読み出すなんて、なんか…珍しい。



「竜司くん、本、読むんだ。」

「あぁ、俺は割と本を読む方だと思うぞ。」

「それ、なんの本?」

「日本の昔話集。桃太郎とか浦島太郎とかが載っている。」

「えっ!?」



予想外の題名が出てきて、驚く。

高校生で日本昔話を読む人って、珍しいと思ったから。



「好きなの?昔話。」

「割と。」

「なんで?」

「………うーん…なんか、昔話とか童話って、読んでいると不思議な感覚になる。」

「へ、へぇ…。」

「たとえば、浦島太郎。浦島太郎ってさ、なんで亀を助けただけなのに、最後あんなバッドエンドなんだろう。」

「あ……なんでだろう。」

「竜宮城って、なんなんだろう。俺はさ、浦島太郎の話って、薬物を使用した時と似ている感じがするんだよね。」

「………え?」

「亀の正体は、薬物。亀をいじめていた人たちは、正しかったんだよ。薬物を排除しようとしていたから。でも、浦島太郎は薬物に手を出してしまった。亀…薬物は、彼を竜宮城へと(いざな)った。竜宮城には、束の間の幸せが、快楽が詰まっていた。そこでは極楽のような時間を過ごせる。しかし、必ず終わりが来るんだよ。現実に、戻らなくてはいけない。でも、現実に戻ると、目を背けたくなるような惨状が広がっている。薬物を使用する前とは、全然違う世界が。人は、また竜宮城に戻りたいと願う。どうしようもなくなって、竜宮城を求めて、快楽を求めて、藁にもすがる思いで、玉手箱を開ける。やがて本当に現実に戻れなくなり、体も心も変わり果ててしまう……なんて。昔、ある人を見て思ったんだ。」



圧倒された。

浦島太郎をこんな解釈する人、初めて見た。

夏に出会った悠馬が脳裏にちらつく。

あの子……元気かな。

ルリさんのことは、割り切れたのだろうか。

それとも、辛い気持ちと共存しているのだろうか。