パティシエ総長と歪な少女


そんな時だった。


「お前、ちょっと止まれ。」


後ろから低い声がして、肩に誰かの手が乗った。

男の手だ。

ぞわりと鳥肌がたった。

その、覚えのある感覚に、頭で考える前に体が動いた。

私は振り返るや否や、腰を落とし、身を引いて拳を握る。

相手を確認する前に少し中指を出した拳を前に突き出した。


パシッ


手を掴まれた感覚がした。

手が掴まれても脚がある。

相手が男なら狙うは股間だ。

私は脚を振り上げるために身構える。


「おい、俺だ!やめろ!!」


聞き覚えのある声に動きが止まる。

さっきまでとは別の意味で鳥肌がたった。

よく動かない首をぐぎぎ、とぎこちなく上に向けると……


「み、み、み……御神楽さん……」


2度と見たくなかった整った顔がそこにはあった。

隣で蓮ちゃんとゆっこちゃんがひっと息を呑むのが聞こえた。


「い、いつから居たんですか…?」

「……校門前からつけてた。」


恐る恐る聞いたが、その答えに背筋がゾクッとした。

やっぱり、目をつけられて…??

絶望する私。


「り、凛ちゃんっ……!」


混乱する蓮ちゃんが私の腕を掴んだ。

その手は、震えていた。

震えたいのは私もだ。

ああ、今のうちに遺言を遺さなきゃ……。

わけのわからないことを頭でぐるぐると考えながら、私は蓮ちゃんと一緒に急いで後ろへ、ゆっこのもとへ飛び退いた。