「明日香ちゃん!久しぶりーって、え?なんかちょっとやつれてない?」

9月25日、映画の完成披露試写会の日。
数ヶ月ぶりに会った沙奈と明菜に言われて、明日香は苦笑いする。

「あはは、ちょっとね。コンサートやつれ」
「そうなんだ!過酷だね」
「いや、私は歌っても踊ってもないから、メンバーに比べたら全然たいしたことないはずなんだけどね」

そう言いながら鏡に映る自分の姿に驚く。
髪はボサボサ、服も適当に選んだものを着ただけで、これではデザイナーを名乗るのも気が引ける。

「ホントに酷いね、私の出で立ち」
「え、えっと、そうね。若干ね」

明菜が沙奈のメイクをしながら苦笑いする。
すると沙奈が口を開いた。

「ねえ、明日香ちゃん。私に用意してくれてるお洋服、どれも凄く可愛いから、明日香ちゃんもどれか着てみない?」
「は?」

明日香が沙奈の言葉にポカンとすると、明菜もいいね!と頷いた。

「沙奈さんが今日使わない衣装、明日香ちゃんが着てみてよ。私がメイクするから」
「へ?どうして?」
「んー、次回の参考に。ね?沙奈さん」
「うん!客観的に見て参考にしたいの」
「はあ…。つまり実験台ってこと?」
「まあ、そうね。うん」

そういうものなのか?と明日香は首を傾げる。

「えっと、明日香ちゃんにはこの水色のワンピースが似合いそう!」
「確かに。髪型はゆるく巻いてからアップにして…」

相談を始める二人に、いやいやと明日香は手を振る。

「それより沙奈さんのスタイリングを考えなきゃ!」
「私はもうヘアメイク終わりかけだもの。ね?明菜ちゃん」
「はい。あとは着替えた後の仕上げで終了です」
「じゃあ私は着替えるから、その間に明日香ちゃん、ヘアメイクしてもらってね」

そう言うと沙奈は立ち上がり、明日香が用意していたいくつかの衣装から、これにしようっと!とオレンジ色のワンピースを選んでカーテンの中に姿を消した。

「はい、じゃあ次。明日香ちゃんね」
「ええ?本当に?」
「うん。次回沙奈さんがこの水色の衣装着ることになったら、どんなヘアメイクが合うか確認したいの。ほら、座って」

明菜に手を引かれて、明日香はドレッサーの前に座る。

「ひゃー、これはメイクし甲斐があるわね」
「それってどういう意味?」
「んー、大変身させちゃうってこと!」

笑いながら明菜は手早く明日香にメイクを施す。
鏡に映る自分がみるみるうちに変わっていき、明日香は驚きの声を上げた。

「凄いね、明菜ちゃん。魔法使いみたい」
「あはは!ありがと」

やがて着替えを終えた沙奈が近づいてきて、わあ!と顔を輝かせる。

「ステキ!明日香ちゃんってこんなにキュートだったのね」
「いや、あの。明菜ちゃんの腕前が凄いだけで…」
「ううん。明日香ちゃんが普段、あまりに化粧っ気がないだけよ」

明菜にズバッと言われて、明日香はうぐっと言葉に詰まる。

「さてと!今日は時間もないし、こんなところかな?じゃあ、ちょっと着替えてみて」
「ええ?!」
「ほら、早く!その間に私は沙奈さんの仕上げするから」

強引にワンピースを渡され、明日香は仕方なく着替えた。

「ちょっとだけだからね。一瞬見せたらすぐに脱ぐからね」

そう言いながらカーテンを開けると、二人はきゃー!と興奮しながら明日香に近づいた。

「可愛い!なんだか乙女って感じ」
「ホント!明日香ちゃん、いつもこういう服着たらいいのに。もったいない」

二人に詰め寄られ、思わず明日香は後ずさる。

「いや、こんなスースーする格好、落ち着かないから。ねえ、もう着替えてもいい?」
「ダーメ!明日香ちゃん、ちゃんと鏡見てみてよ」

沙奈に手を引かれて明日香は鏡の前に立つ。
これが私?と鏡の中の自分に驚いていると、明菜がうっとりと手を合わせた。

「わー、沙奈さんと明日香ちゃん、ペアみたい。似合ってる」
「明菜ちゃん!まさか、そんな」

慌てて否定すると、沙奈も笑顔で言う。

「本当!明日香ちゃんも一緒に舞台挨拶出る?」
「出る訳ないです!」

その時、廊下から話し声が聞こえてきて、隣の控え室に誰かが入る音がした。

「あ!柏木さんじゃない?明日香ちゃん、行かなくていいの?」
「大変!そうだった」

ドームコンサートの後、陽子は「体力の限界です!」と言って10日程休暇を取っており、今日の現場も明日香だけでこなすことになっていた。

「ちょっと行ってくるね!」

明日香が急いでドアに向かうと、行ってらっしゃーい!と二人は明るく見送った。