「うん、いいんじゃない?3人ともこの衣装で。序盤の公園のシーンだよね?」

監督の言葉に明日香は頷いて説明する。

「はい、そうです。海沿いの大きな公園でのシーンなので、芝生の緑や空の色、あとは海の青さも考慮してこの色にしました。主役のパパの爽やかさとカッコよさ、ナチュラルだけど綺麗なママ、そして幸せな家族の象徴として、元気いっぱいの愛らしい健悟くんの装いをイメージしました。3人ともそれぞれちょっとしたリンクコーディネートになっています」
「ふうん、実際にカメラを回すのが楽しみだな。初っ端はこのシーンを撮ろう」

隣に座る助監督に指示をしてから、藤堂は衣装のリストをめくる。

「このネイビーの服、これってどのシーン?」
「はい。それは公園で遊んだ日の夜のシーンです。自宅のソファに夫婦並んで座っている…」
「ああ、そこか!へえー、いいね。さすがは瞬を知り尽くしてる。じゃあ瞬、次はこれ着てみてくれ」
「はい」

明日香は瞬に、ネイビーのVネックのトップスを手渡す。

「インナーはナシで、これ一枚でお願いします。ボトムはこのままです」
「分かった」

受け取った瞬は何を思ったのか、その場で着ていたシャツを脱ぎ、上半身裸になる。

「ちょ、瞬くん!」
「なに?」
「控え室で着替えてきてよ」
「面倒くさい」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「どういう問題?」
「女性もいるのよ?皆さん困惑されるでしょ」

すると監督が笑い出す。

「大丈夫だよー。困惑どころか、みんなラッキー!って思ってるよ」
「ええ?!」

明日香が部屋を見渡すと、数少ない女性スタッフは、頬を両手で挟んで色めき立っている。

瞬がトップスに袖を通し頭から被ると、更にどよめきが大きくなった。

「おおー、いいね!瞬、お前も男になったなあ。こりゃ、大人の色気がダダ漏れだ。女性のハートを鷲掴みってやつだな。よし!この衣装も決定。いいシーンが撮れそうだぞー」

監督の楽しそうな声を聞きながら、明日香は台本と資料に決定した衣装を書き込んでいく。

その後の衣装合わせもスムーズに進み、無事に全ての予定を終えた。

「お疲れ様でした。またね!健悟くん」
「うん!またね、あすか」

すっかり打ち解けた健悟に手を振って見送っていると、ふとこちらを見ている瞬と目が合った。

「お疲れ様です。何かありましたか?」

衣装のことで何か話があるのかと思ったが、瞬は短く、いや、と首を振ると、足早に部屋を出ていった。