「はあー、楽しかった!」

ひとり暮らしのマンションの部屋に帰ってくると、明日香はベッドにボフッと身を投げてパーティーを振り返る。

お開きになると、紗季は改めて陽子と明日香にありがとうと声をかけてきた。

「年末の現場が忙しい時期に、4人の衣装を1から作ってくれたの?本当にありがとう」
「いいえ。ざっくりだったからすぐに作れましたし、4人のサイズも把握してますから」

明日香がそう答えると、陽子が横から口を挟む。

「とか言いつつ、いざ作り始めたら細部までこだわり始めちゃってさ。出たよー、明日香の凝り性が、と思って見てたのよ」
「あはは!でしょうね。明日香がざっくり適当に作るなんて想像出来ないもの」
「いえ、本当に大雑把に作りましたよ?」
「はいはい。あれで大雑把なのね。よーく見直してみなさいよ。いつでも本番で使えるクオリティだから」

半分呆れたように言っていた陽子のセリフを思い出し、明日香は持ち帰ってきた衣装のバッグを開けた。
フェアリーテイルの直哉と充希の衣装、それから瞬のタキシードが入っている。

(うーん、確かに縫製はしっかりしてるけど、ギャザーの寄せ方は雑だな)

歌ったり踊ったりする舞台衣装としては、そこまで細かく気にする必要はないのかもしれないが、明日香は納得いかない。
たとえ見えない部分でも、一切の妥協をせずに作ってきた。
どこか少しでも手を抜けば、それは別の形で表れてしまうような気がしていたし、何よりこの衣装を着てくれるメンバーに申し訳がない。

(私もまだまだだな。もっと細かい部分も綺麗に仕上げないと)

反省しながら瞬のタキシードも見てみる。

(こっちは割と上手く出来てる。形もシンプルだったからかな。でも男性用だから、ジャケットのラインももっと変えた方が良かったかも…。ん?)

真剣にジャケットをくまなくチェックしていたが、ふと手を止めて顔を近づける。

(わあ、瞬くんの匂いがする。いい香り)

香水ではないだろうが、瞬からはいつもほのかに良い香りがする。
明日香はジャケットを抱きしめながら深呼吸した。

(ふふ、なんだか安心する。って、やだ!私、変態かも?)

慌てて真顔に戻り、ジャケットをハンガーに戻す。
だがどうしても誘惑に負けて、もう一度ジャケットに顔を寄せた。

(瞬くん、今日の『It's magic!』めちゃくちゃカッコよかったなあ。手品もさすがの腕前だし。今日の映像、優子さんにお願いしてコビーもらいたいな)

そうすれば、いつでもあのカッコイイ瞬に会える。
そう思うと明日香は急に顔が赤くなるのを感じた。

(もう本当に、私色々アブナイ人みたい。でも…仕方ないか。だって瞬くんがとびきりカッコイイんだもーん)

ジャケットにそっと手で触れながら、明日香はふふっと微笑んだ。