「もしもし明日香?まだ起きてた?」
「うん、起きてたよ」
「そっか、良かった。今帰ってきたんだ。連絡遅くなってごめん」
「ううん。瞬くん、今日はお疲れ様でした」
「明日香も、お疲れ様」

舞台挨拶を終え、いくつかの取材やインタビューをこなしてから、瞬は富田と事務所に戻っていった。

「あとで電話するから」

帰り際にこっそりささやいた瞬に、明日香は一気に頬を赤らめ、陽子に冷やかされていた。

「事務所のお話はどうだった?大丈夫?」
「ああ。しばらくは落ち着かないけど、心配するようなことは何もないって富田さんも言ってくれた」
「そう!良かった」

ホッとした後、明日香は声を潜めて瞬の名を呼ぶ。

「瞬くん」
「ん?なに」
「あのね、今日の瞬くん、とってもカッコよかった」
「え?」
「インタビューの時の瞬くん。カッコよくて頼もしくて、私、凄く守られてるんだなって思って嬉しかった。ありがとう」

電話の向こうで、瞬がふっと笑みを洩らす。

「こちらこそ。今日、インタビューで話してて思ったんだ。やっぱり10年って長いよなって。普通では考えられないほど貴重な10年間、明日香は俺だけを想い続けてくれた。相手が明日香だったから、ファンの人達も祝福してくれたんだと思う」
「ううん、そんなことない。瞬くんの誠意がファンの皆さんに届いたんだよ。おめでとう、瞬くん」
「ありがとう…って、おかしいだろ?!なんだよ、それ。人ごとみたいに。俺の結婚相手は明日香だぞ?」
「そうか、あはは!」

明るく笑う明日香に呆れてから、瞬も納得したように頷く。

「でも、ま、そうだな。お互いめでたいよな。おめでとう、明日香」
「ふふ、ありがとう!」

そしてしばらく沈黙が流れる。
顔が見えない分、相手の気持ちを感じ取ろうと耳を澄ませた明日香は、瞬の温かい雰囲気に心が包まれるような気がした。

「明日香」
「なあに?」
「いや、なんか、電話っていいなと思って。明日香と電話で話すのって、こんなに癒やされるんだな」
「ふふ、私も今そう思ってた。これからも毎晩瞬くんと電話で話したいな」
「ええ?!結婚して一緒に住むのに?」
「うん。ほら、別々の部屋から電話しない?」
「そんな…。俺は明日香をずっと抱きしめていたい」

え…、と明日香は顔を赤くする。

「もしもし明日香?聞いてる?」
「き、聞いてます」
「なに?ひょっとして照れてるの?」
「ててて照れてません」
「あはは!可愛いな、明日香」
「もう!瞬くん!」

他愛もない会話。
けれど、最高に幸せなかけがえのない時間。

二人はごく普通の恋人同士の会話を、いつまでも楽しんでいた。