──あれから2ヶ月。

僕は放課後、図書室に通うようになった。

翠月先輩に会うために。


それが、僕と翠月先輩が交わした“契約”の内容だった。


ある日の放課後、僕はまた図書室に来ていた。

翠月先輩に呼び出されたからだ。


「あ!ちゃんと来てくれたんだ!良かった〜」


「先輩が呼び出したんでしょう。」


「来てくれないかと。」


「僕はそんな薄情な人間ではありません。」


「あっそ。……で、話なんだけどさ」


「はい。」


「私と付き合ってよ。」


「はあ!?」


待て待て待て。

なんでそうなる。

僕と翠月先輩は、知り合ってまだ少ししか経ってない。

なのに、いきなり“私と付き合って”だって?

……頭沸いてるんじゃないんだろうか。


「大丈夫。本格的なやつじゃないから。」


と、すかさず翠月先輩からフォローが入る。


「なんていうか……“嘘カレ”?」


「なんだか最近、図書室に来てくれる子たちに告白されるんだよね。」


「最初は先生が追い払ってくれたんだけど、図書室前でたむろされたり、数が多いもんだからもうお手上げで。」


……そういえば、この人顔はいいんだよなぁ。

性格はこんなだけど。


「他の人に、頼めばよかったんじゃないんですか。」


「それがさぁ、みんな“面倒事はごめんだ”って感じで、断られちゃったんだよね。」


「だからさ、頼めるの“ちーくん”しかいないんだよ。」


……と、へらへらした感じで言ってくる。


「そんなの、僕に利益がないじゃないですか。」


「……1年。」


「えっ?」


「来年の、今日まで。それまででいいから、お願い。」


……そんな風に言われたら、断りづらくなるじゃないか。


「わかりました。先輩の“嘘カレ”、やります。」



また、思ってもいないことを口にしていた。


それからは、怒涛の日々だった。

毎昼休みに“ちーくん”と呼ばれる。

“一緒にお弁当食べよ?”と誘われる。

その度に、


「こいつが、どうかしたんですか」


と、あいつらいじめっ子に絡まれる。


そんな時、翠月先輩が、


「この子、私の彼氏だから。」


「手、出さないでね?」


と、言ってくれる。


……僕と先輩、逆なんじゃないだろうか。


自然と、いじめられなくなっていた。