〇大手毬家・リビング(昼間)
アンティーク家具の並ぶヨーロッパ調の部屋。
豪華なソファに座り、紅茶を飲む咲良。
テーブルにはケーキやチョコレートなどの皿が並ぶ。
侍女が現れて咲良の耳もとでひそひそと話す。
それを聞いた咲良はにんまり笑う。
咲良「そう。あの子、学校に来なくなったの?」
ふふっと笑い、綺麗にネイルをした手でチョコレートをつまむ咲良。
咲良(家に連れ戻されたのかもしれないわね)
咲良(まあ、あの家じゃ二度と外へ出ることはできないでしょう)
チョコレートを口に含み、にやりと口角を上げる咲良。
咲良「これで邪魔者はいなくなったわ」
咲良「次のパーティであたしは正式に千颯の【つがい】に選ばれる」
ふふふっと笑みを洩らす咲良。
執事がやって来て咲良に声をかける。
執事「咲良さま、本日は午後から出席されますか?」
咲良「今日は休むわ。千颯のいない学校へ行ってもつまんないもの」
執事「かしこまりました」
執事は一礼して下がる。
咲良(学校なんて行く必要ないわ)
咲良(どうせあたしはもうすぐ千颯と結婚して、子どもを産むんだから)
咲良(雪柳家の跡継ぎをね)
ぺろっとチョコレートのついた指先を舐める咲良。
〇菜花の自宅・リビング(昼間)
インターフォン越しに宗源を見て怯える菜花。
菜花「うそ……どうして、おじいさんが?」
宗源『菜花、いるのだろう? 出てこなければこの家を破壊して連れ出すしかないのだがな?」
びくっと震え上がる菜花。
千颯『絶対に出るな! すぐ行くから菜花は隠れて!』
菜花「う、うん」
慌てて寝室に駆け込み、クローゼットの中に隠れる菜花。
千颯『電話はこのままで。大丈夫。今、向かってる』
菜花「……千颯くん」
震えながらスマホを握りしめる菜花。
すると、ドガッと扉が破壊される音がしてびくっと震える菜花。
千颯『まさか、俺の結界が破られた? くそっ、小黒龍はどうしたんだ?』
菜花「小黒龍?」
家に帰り着いたときにふと感じた気配を思い出す菜花。
千颯『菜花、精霊結界だ。ないよりマシだ』
菜花「うん」
深呼吸して集中し、声高に叫ぶ。
菜花「精霊結界!」
寝室に透明な壁が張り巡らされる。
すぐに宗源の怒鳴り声が聞こえてくる。
宗源「こんなものを張っても無駄だ。菜花、出てこい!」
菜花「ひっ……」
呼吸が止まりそうになり、震える菜花。
千颯『怯むな! 全力で耐えるんだ!』
菜花「うっ……」
涙ぐみながら両手をかかげて結界を維持しようとする菜花。
パーンッと弾ける音がして、菜花の結界が破壊される。
同時にクローゼットの扉まで壊され、菜花の手からスマホが吹き飛んでしまう。
恐る恐る顔を上げると、そこには宗源の姿。
宗源「やっと見つけたぞ、菜花。妙な護衛精霊などつけおって」
菜花「えっ……?」
宗源「雪柳家の護衛だ。お前にくっついていたのは。私が始末したがな」
菜花(千颯くんの小黒龍が……)
ゾッとする菜花。
千颯『菜花、菜花……』
遠く離れて場所に転がるスマホから千颯の声。
宗源がぎろりと睨みつけ、スマホを蹴り飛ばす。
壁に激突したスマホが破壊され、千颯の声がぷつりと途切れる。
宗源「ちっ、雪柳家の息子が出しゃばりやがって」
ずきりと胸が痛む菜花。
宗源「これで邪魔者は消えた。菜花、私と帰るぞ。お前の家に」
菜花「いやです……!」
眉をぴくりと動かす宗源。
震えながら声を洩らす菜花。
菜花「わたしには、あんな修行は……耐えられません」
菜花「お願です……許して、ください」
床に膝をついて震えながら頭を下げる菜花。
宗源「叩かれなければわからないようだな?」
びくっと震える菜花。
宗源「それとも、鞭で打たれたいか?」
精霊術を失敗するたびに鞭を振りあげていた宗源を思いだす菜花。
宗源「私はお前の父親をさらって監禁することもできるぞ?」
宗源「お前が素直に戻らなければ、父親は一生屋敷の地下牢で過ごすことになるだろう」
ゾッとして震える菜花。
菜花「いやです、それだけは……」
宗源「ならば、私とともに帰るのだ。雛菊家に」
どくどくと鼓動が鳴り、緊張で頭が混乱する菜花。
乱れる呼吸を必死に落ち着かせようと深く息を吸って吐く。
菜花(だめよ、落ち着いて。千颯くんが来てくれる。ぜったいに来てくれる)
菜花(だから、わたしはどうにかして時間を稼がなきゃ)
ゆっくりと顔を上げる菜花。
目の前には恐ろしい形相をした祖父の姿。
菜花「お、おじいさん。もし、わたしが戻ったら、お父さんを自由にしてくれますか?」
ふんっと鼻を鳴らす宗源。
宗源「お前次第だ」
菜花「では、千颯くんのことも、許してくれますか?」
宗源「二度とあいつには会わせん。だが、お前が素直に戻るならあいつを審問会にかけるのはやめてやろう」
菜花「審問会……?」
宗源「雪柳家は最大勢力だが、あの家門に不満を持つ勢力もいくつかある。審問会にかけて奴の罪を問うてやる」
菜花「千颯くんは、罪なんて……」
宗源「私の孫娘を勝手に連れ去ったのだ。奴は誘拐犯だろう?」
菜花「違います! わたしの意思で千颯くんの家に置いてもらったんです」
ひたひたと近づいてくる宗源から逃れようと横に走る菜花。
菜花に手を伸ばす宗源。
すると床が盛りあがり、足を取られて派手に転ぶ菜花。
菜花「痛っ……」
宗源「そうだ。菜花、お前がすべて悪い。おとなしくうちへ戻ればまわりに迷惑をかけることもないのだぞ?」
それを聞いて咲良の声がよみがえる菜花。
咲良『あなたが千颯のそばにいると、いろんな人に迷惑がかかるの』
不安げな顔でうつむく菜花。
菜花(わたしのせいで……千颯くんにも、まわりにも、迷惑をかけてしまう……?)
ガシャーンッと窓ガラスが派手に割れる音がする。
驚いてそちらへ顔を向けた宗源が声を荒らげる。
宗源「お前は!」
菜花が顔を上げて目を向けると、そこには白く輝く銀髪を逆立てた千颯の姿。
菜花「千颯くん!」
ぎろりと宗源を睨みつける千颯。
千颯「菜花は渡さない」
宗源「どの口がそう言うか!」
千颯「精霊結界!」
宗源の足もとから盛りあがった土の柱が千颯を襲う。
結界を張ってそれを阻止し、やり返す千颯。
千颯「土塊壁龍」
土の壁が龍の形になって宗源に襲いかかる。
それを手を振り払って一瞬で破壊する宗源。
宗源「なんだ、雪柳家の力はこの程度か。後継者は育っていないようだな」
驚いて目を見開く千颯。
菜花「千颯くん!」
宗源「お前はそこから動くな!」
菜花に手をかかげる宗源。
すると床下から木の枝が伸びて菜花の手足を拘束する。
同時に天井が崩れ落ちて千颯を下敷きにする。
菜花「いやあああ! 千颯くん!」
宗源「お前が悪いのだぞ、菜花。おとなしく従わないからだ。雪柳家の息子は事故死としよう」
菜花「千颯くん! 千颯くん!」
泣き叫ぶ菜花。
すると、瓦礫の下から体を起こす千颯。
千颯「……勝手に、殺すなよ」
宗源「ほう。さすがは最強一族と呼ばれるだけある。だが、お前の力は恐れる程度ではないな」
うつ伏せのまま宗源を睨みつける千颯。
菜花(千颯くん、どうして……もっと強いはず)
菜花(まさか、わたしに霊力を与えてくれたせいで?)
千颯を見下ろしながら嘲笑する宗源。
宗源を見て苦悶する千颯。
その様子を見て震える菜花。
菜花(どうしよう。このままだと千颯くんが……)
菜花(でも、わたしの力じゃ、おじいさんに敵わない)
菜花(もっと、強い力があれば……!)
ふと母親の面影が頭に浮かぶ菜花。
母親『菜花、大丈夫よ』
母の笑顔と声がはっきりと頭に浮かび、きりっと表情を硬くする菜花。
菜花(千颯くんを死なせない)
手足が拘束された状態でどうにか体を動かす菜花。
菜花(弱いままでいたくない。守られるだけなんてだめ!)
千颯に向かって手をかかげる宗源。
歯を食いしばりながら見あげる千颯。
菜花(今度はわたしが千颯くんを助ける)
静かに声を出す菜花。
菜花「精魂解放」
菜花の体から霊力があふれ出す。
アンティーク家具の並ぶヨーロッパ調の部屋。
豪華なソファに座り、紅茶を飲む咲良。
テーブルにはケーキやチョコレートなどの皿が並ぶ。
侍女が現れて咲良の耳もとでひそひそと話す。
それを聞いた咲良はにんまり笑う。
咲良「そう。あの子、学校に来なくなったの?」
ふふっと笑い、綺麗にネイルをした手でチョコレートをつまむ咲良。
咲良(家に連れ戻されたのかもしれないわね)
咲良(まあ、あの家じゃ二度と外へ出ることはできないでしょう)
チョコレートを口に含み、にやりと口角を上げる咲良。
咲良「これで邪魔者はいなくなったわ」
咲良「次のパーティであたしは正式に千颯の【つがい】に選ばれる」
ふふふっと笑みを洩らす咲良。
執事がやって来て咲良に声をかける。
執事「咲良さま、本日は午後から出席されますか?」
咲良「今日は休むわ。千颯のいない学校へ行ってもつまんないもの」
執事「かしこまりました」
執事は一礼して下がる。
咲良(学校なんて行く必要ないわ)
咲良(どうせあたしはもうすぐ千颯と結婚して、子どもを産むんだから)
咲良(雪柳家の跡継ぎをね)
ぺろっとチョコレートのついた指先を舐める咲良。
〇菜花の自宅・リビング(昼間)
インターフォン越しに宗源を見て怯える菜花。
菜花「うそ……どうして、おじいさんが?」
宗源『菜花、いるのだろう? 出てこなければこの家を破壊して連れ出すしかないのだがな?」
びくっと震え上がる菜花。
千颯『絶対に出るな! すぐ行くから菜花は隠れて!』
菜花「う、うん」
慌てて寝室に駆け込み、クローゼットの中に隠れる菜花。
千颯『電話はこのままで。大丈夫。今、向かってる』
菜花「……千颯くん」
震えながらスマホを握りしめる菜花。
すると、ドガッと扉が破壊される音がしてびくっと震える菜花。
千颯『まさか、俺の結界が破られた? くそっ、小黒龍はどうしたんだ?』
菜花「小黒龍?」
家に帰り着いたときにふと感じた気配を思い出す菜花。
千颯『菜花、精霊結界だ。ないよりマシだ』
菜花「うん」
深呼吸して集中し、声高に叫ぶ。
菜花「精霊結界!」
寝室に透明な壁が張り巡らされる。
すぐに宗源の怒鳴り声が聞こえてくる。
宗源「こんなものを張っても無駄だ。菜花、出てこい!」
菜花「ひっ……」
呼吸が止まりそうになり、震える菜花。
千颯『怯むな! 全力で耐えるんだ!』
菜花「うっ……」
涙ぐみながら両手をかかげて結界を維持しようとする菜花。
パーンッと弾ける音がして、菜花の結界が破壊される。
同時にクローゼットの扉まで壊され、菜花の手からスマホが吹き飛んでしまう。
恐る恐る顔を上げると、そこには宗源の姿。
宗源「やっと見つけたぞ、菜花。妙な護衛精霊などつけおって」
菜花「えっ……?」
宗源「雪柳家の護衛だ。お前にくっついていたのは。私が始末したがな」
菜花(千颯くんの小黒龍が……)
ゾッとする菜花。
千颯『菜花、菜花……』
遠く離れて場所に転がるスマホから千颯の声。
宗源がぎろりと睨みつけ、スマホを蹴り飛ばす。
壁に激突したスマホが破壊され、千颯の声がぷつりと途切れる。
宗源「ちっ、雪柳家の息子が出しゃばりやがって」
ずきりと胸が痛む菜花。
宗源「これで邪魔者は消えた。菜花、私と帰るぞ。お前の家に」
菜花「いやです……!」
眉をぴくりと動かす宗源。
震えながら声を洩らす菜花。
菜花「わたしには、あんな修行は……耐えられません」
菜花「お願です……許して、ください」
床に膝をついて震えながら頭を下げる菜花。
宗源「叩かれなければわからないようだな?」
びくっと震える菜花。
宗源「それとも、鞭で打たれたいか?」
精霊術を失敗するたびに鞭を振りあげていた宗源を思いだす菜花。
宗源「私はお前の父親をさらって監禁することもできるぞ?」
宗源「お前が素直に戻らなければ、父親は一生屋敷の地下牢で過ごすことになるだろう」
ゾッとして震える菜花。
菜花「いやです、それだけは……」
宗源「ならば、私とともに帰るのだ。雛菊家に」
どくどくと鼓動が鳴り、緊張で頭が混乱する菜花。
乱れる呼吸を必死に落ち着かせようと深く息を吸って吐く。
菜花(だめよ、落ち着いて。千颯くんが来てくれる。ぜったいに来てくれる)
菜花(だから、わたしはどうにかして時間を稼がなきゃ)
ゆっくりと顔を上げる菜花。
目の前には恐ろしい形相をした祖父の姿。
菜花「お、おじいさん。もし、わたしが戻ったら、お父さんを自由にしてくれますか?」
ふんっと鼻を鳴らす宗源。
宗源「お前次第だ」
菜花「では、千颯くんのことも、許してくれますか?」
宗源「二度とあいつには会わせん。だが、お前が素直に戻るならあいつを審問会にかけるのはやめてやろう」
菜花「審問会……?」
宗源「雪柳家は最大勢力だが、あの家門に不満を持つ勢力もいくつかある。審問会にかけて奴の罪を問うてやる」
菜花「千颯くんは、罪なんて……」
宗源「私の孫娘を勝手に連れ去ったのだ。奴は誘拐犯だろう?」
菜花「違います! わたしの意思で千颯くんの家に置いてもらったんです」
ひたひたと近づいてくる宗源から逃れようと横に走る菜花。
菜花に手を伸ばす宗源。
すると床が盛りあがり、足を取られて派手に転ぶ菜花。
菜花「痛っ……」
宗源「そうだ。菜花、お前がすべて悪い。おとなしくうちへ戻ればまわりに迷惑をかけることもないのだぞ?」
それを聞いて咲良の声がよみがえる菜花。
咲良『あなたが千颯のそばにいると、いろんな人に迷惑がかかるの』
不安げな顔でうつむく菜花。
菜花(わたしのせいで……千颯くんにも、まわりにも、迷惑をかけてしまう……?)
ガシャーンッと窓ガラスが派手に割れる音がする。
驚いてそちらへ顔を向けた宗源が声を荒らげる。
宗源「お前は!」
菜花が顔を上げて目を向けると、そこには白く輝く銀髪を逆立てた千颯の姿。
菜花「千颯くん!」
ぎろりと宗源を睨みつける千颯。
千颯「菜花は渡さない」
宗源「どの口がそう言うか!」
千颯「精霊結界!」
宗源の足もとから盛りあがった土の柱が千颯を襲う。
結界を張ってそれを阻止し、やり返す千颯。
千颯「土塊壁龍」
土の壁が龍の形になって宗源に襲いかかる。
それを手を振り払って一瞬で破壊する宗源。
宗源「なんだ、雪柳家の力はこの程度か。後継者は育っていないようだな」
驚いて目を見開く千颯。
菜花「千颯くん!」
宗源「お前はそこから動くな!」
菜花に手をかかげる宗源。
すると床下から木の枝が伸びて菜花の手足を拘束する。
同時に天井が崩れ落ちて千颯を下敷きにする。
菜花「いやあああ! 千颯くん!」
宗源「お前が悪いのだぞ、菜花。おとなしく従わないからだ。雪柳家の息子は事故死としよう」
菜花「千颯くん! 千颯くん!」
泣き叫ぶ菜花。
すると、瓦礫の下から体を起こす千颯。
千颯「……勝手に、殺すなよ」
宗源「ほう。さすがは最強一族と呼ばれるだけある。だが、お前の力は恐れる程度ではないな」
うつ伏せのまま宗源を睨みつける千颯。
菜花(千颯くん、どうして……もっと強いはず)
菜花(まさか、わたしに霊力を与えてくれたせいで?)
千颯を見下ろしながら嘲笑する宗源。
宗源を見て苦悶する千颯。
その様子を見て震える菜花。
菜花(どうしよう。このままだと千颯くんが……)
菜花(でも、わたしの力じゃ、おじいさんに敵わない)
菜花(もっと、強い力があれば……!)
ふと母親の面影が頭に浮かぶ菜花。
母親『菜花、大丈夫よ』
母の笑顔と声がはっきりと頭に浮かび、きりっと表情を硬くする菜花。
菜花(千颯くんを死なせない)
手足が拘束された状態でどうにか体を動かす菜花。
菜花(弱いままでいたくない。守られるだけなんてだめ!)
千颯に向かって手をかかげる宗源。
歯を食いしばりながら見あげる千颯。
菜花(今度はわたしが千颯くんを助ける)
静かに声を出す菜花。
菜花「精魂解放」
菜花の体から霊力があふれ出す。