〇菜花の自宅(昼間)
玄関前に辿り着き、ハルに礼を言う菜花。
菜花「ハルさん、送ってくれてありがとう」
菜花のまわりをくるりと一周したあと帰っていくハル。
そして、ゆっくりと鍵を開けてドアを開ける菜花。
菜花「ただいま……」
ふと、妙な視線に気づいて振り返る菜花。
しかしそこには誰もいない。
菜花(誰かに見られているような……気のせいかな?)
怖くなってすぐに中へ入り、ドアを閉めて鍵をかける菜花。
すると、離れたところで菜花を見ていたのは小黒龍。
小黒龍の瞳が赤く光る。
〇菜花の自宅・リビング(昼間)
大喜びで菜花を迎える父。
父「菜花!」
菜花「お父さん、ただいま」
リビングの棚の上にピンクのガーベラを活けた花瓶と母の写真がある。
写真の母に向かって笑顔で声をかける菜花。
菜花「お母さん、ただいま」
母は満面の笑みで写っている。
父「菜花が元気そうだから安心したよ。千颯くんはいい人なんだな」
菜花「うん、とてもよくしてくれるの。申し訳ないくらいだよ」
千颯のことを思い浮かべて胸の奥がぎゅっと締めつけられる菜花。
うつむく菜花を見て困惑の表情をする父。
父「菜花がつらい目にあっていないかと、ずっと考えて眠れなかったよ」
菜花「千颯くんはすごくやさしいよ。いつも、助けてくれるの」
父「ありがたいな。菜花をこんなに思ってくれる人がいるなんてな」
菜花「うん……」
目頭が熱くなり、思わずうつむく菜花。
笑顔で菜花に声をかける父。
父「今日は菜花の好きなものを作ってやるぞ 」
菜花「わあ、お父さんのごはん久しぶり!」
〇菜花の自宅・キッチン(夜)
ダイニングテーブルで夕食をとる菜花と父。
料理はビーフシチューとサラダとバゲッドにオムレツもある。
菜花「お父さんの作るシチューはほんとにおいしい」
父「よかった。ほら、野菜も食べるんだよ」
菜花「もうー。わたし、もう子どもじゃないよ」
父「ははっ、そうだったな」
照れくさそうに笑う父を見て微笑む菜花。
菜花はこれまでのことと、雛菊家と雪柳家について父に話す。
話を聞いていた父はだんだん神妙な面持ちになる。
父「そうか。やはり、母さんの言っていたとおりなんだな」
菜花「お母さんが?」
父「菜花、お前に話しておかなきゃいけないことがある」
あまりに真剣な表情の父に、思わず背筋を伸ばす菜花。
父「僕と母さんはかけおちだったんだ。母さんのお父さんに反対されてね」
どきりとして肩が震える菜花。
父は母とのなれそめを話す。
もともと父は雛菊家の使用人の子だったらしく、たまに屋敷に顔を覗かせていた。
幼い頃に母と出会い、こっそり文通などしていたようだ。
18の頃にふたたび再会し、母はそのとき父に自分を連れだしてほしいと訴えた。
そして、父はその願いを叶えたということだ。
父「宗源さんが怒るのも無理はないんだ。父さんは彼の娘を奪ったのだからね」
父の言葉にずきりと胸が痛む菜花。
父「だけど、母さんはあの家で苦しんでいた。だから、母さんを連れだしたことを僕は後悔していないよ」
菜花「うん」
菜花が微笑むと、父も安堵したように笑みを浮かべる。
父「宗源さんは菜花をどうにかして雛菊家に連れ戻そうとしている。それだけは阻止したい」
菜花「うん。わたしも二度と戻りたくない」
父「でも、無力な僕では菜花を守ることができない。だから、千颯くんの申し出は本当にありがたいと思った」
千颯のことを言われて思わず微笑む菜花。
父 「でも、これが状況をさらに複雑にしてしまったんだ」
ふたたび深刻な表情をする父に、菜花が口を挟む。
菜花「雪柳家との因縁のことだよね?」
驚き、そして冷静にうなずく父。
父「ああ、そうだ。詳しくは僕にはわからない。でも、千颯くんが菜花と接触したことを宗源さんはご存じのはずだ」
父「おそらく、菜花を奪いにくる」
それを聞いて身震いがする菜花。
父「しばらく学校は休んだほうがいい。外出も控えて、ここでゆっくりするといいよ」
父「千颯くんが雪柳家の結界を張ってくれたんだ。家の中にいれば宗源さんは菜花に近づけない」
静かにうなずく菜花。
菜花「うん、わかった」
〇菜花の自宅・寝室(夜)
ベッドの中で布団にくるまってスマホを眺める菜花。
精霊術協会や精霊師のことは検索してもあまりヒットしない。
それは精霊師の世界での機密事項となっているため。
菜花(人間の世界に生きているのに、まるで別世界に生きているみたい)
スマホを置いて布団に潜り込む菜花。
菜花(千颯くん、どうしてるかな? 今夜も星を見ているのかな?)
目を閉じると千颯とのキスがよみがえり、頬を赤らめる菜花。
菜花(よく考えたらどうしてあんなことができたんだろ?)
菜花(今さらだけど、恥ずかしいよ!)
頭まで布団をかぶる菜花。
赤面しながら、なかなか眠りにつけない。
同時に胸がぎゅっと痛んだ。
菜花(変だな、わたし……もう、寂しくてたまらない)
菜花(千颯くんに会いたい)
ふとよみがえる咲良の記憶。
咲良『あたしは千颯の婚約者だもの』
ぎゅっと目を閉じてうずくまる菜花。
すると、スマホにメッセージが届く。
慌てて確認すると千颯からだった。
千颯【もう寝た?】
菜花【寝てないよ】
返事をしたらすぐに電話がかかってきた。
思わず体を起こして電話に出る菜花。
菜花「千颯くん?」
千颯『ごめん。疲れてるだろ?』
菜花「ううん、大丈夫」
千颯『お父さんと話せた?』
菜花「うん。いろいろ聞いたよ。千颯くん、わたしのためにいろいろしてくれたんだね。ありがとう」
千颯『たいしたことじゃない』
少しの沈黙。
菜花(不思議。会いたいって思ったら電話がかかってくるなんて)
頬を赤らめる菜花。
千颯『ここ最近ずっと菜花がいたから、ちょっと家が広く感じて困る』
菜花「ふふっ、千颯くんの家は広いんだよ」
千颯『俺の実家はもっと広いよ。今度連れてってやるよ』
菜花「……そうだね」
胸がぎゅっと苦しくなり、複雑な表情をする菜花。
千颯『毎日、電話していい?』
どきりとする菜花。
咲良のことが頭によぎり、躊躇する。
千颯『いや、邪魔だったな』
菜花「邪魔じゃないよ。電話くれてうれしい!」
思わず素直な気持ちを口にする菜花。
赤面しながらおずおずと要望を口にする。
菜花「わたしも、千颯くんと毎日話したい」
千颯『わかった。いつでも連絡して。俺も連絡するから』
菜花「うん」
しばらくの沈黙のあと、千颯から遠慮がちな声がする。
千颯『じゃあ、また、明日』
菜花「うん。また明日ね」
千颯『おやすみ』
菜花「おやすみなさい」
電話を切ったあと、しばらく顔の火照りと鼓動の高鳴りが収まらずにいる菜花。
スマホの連絡先にある千颯の名前をしばらく眺める。
菜花(千颯くんの声、すごくドキドキする。それに、安心する)
スマホを抱きしめたまま眠りにつく菜花。
〇菜花の自宅・リビング(昼間)
掃除機をかけて、トイレと風呂掃除をする菜花。
写真立ての横にある花瓶の水を変えて母に手を合わせる菜花。
菜花(家に帰ってもう1週間かあ)
菜花(千颯くん、ちゃんと食べてるかな?)
菜花(ハルさんがいるから大丈夫だよね)
ちょうどそのとき、千颯から電話がかかってくる。
驚いて慌てて電話に出る菜花。
菜花「千颯くん、学校は?」
壁時計に目をやると午前11時を指している。
千颯『俺、いつも遅刻だよ。菜花がいるあいだはちゃんと行ってたけどさ』
菜花「朝ごはんも食べてないでしょ?」
千颯『あ、バレたか』
菜花「もうー! お昼はちゃんと食べないと」
千颯『菜花の弁当が食べたい』
突然そう言われて、戸惑いつつ笑みをこぼす菜花。
菜花「帰ったら作るよ」
千颯『じゃあ、それを楽しみに頑張ることにする』
頬を赤らめてふふっと笑う菜花。
そのとき、インターフォンが鳴り響く。
菜花「誰か来たみたい」
千颯『宅配でも頼んだ?』
菜花「ううん。頼んでないし、誰かが来る予定もないんだけど」
千颯『怪しい奴なら無視すれば?』
菜花「……うん」
インターフォンの画面で確認するとそこに映っていた人物に驚愕する菜花。
菜花「うそっ……おじいさん!?」
玄関前に辿り着き、ハルに礼を言う菜花。
菜花「ハルさん、送ってくれてありがとう」
菜花のまわりをくるりと一周したあと帰っていくハル。
そして、ゆっくりと鍵を開けてドアを開ける菜花。
菜花「ただいま……」
ふと、妙な視線に気づいて振り返る菜花。
しかしそこには誰もいない。
菜花(誰かに見られているような……気のせいかな?)
怖くなってすぐに中へ入り、ドアを閉めて鍵をかける菜花。
すると、離れたところで菜花を見ていたのは小黒龍。
小黒龍の瞳が赤く光る。
〇菜花の自宅・リビング(昼間)
大喜びで菜花を迎える父。
父「菜花!」
菜花「お父さん、ただいま」
リビングの棚の上にピンクのガーベラを活けた花瓶と母の写真がある。
写真の母に向かって笑顔で声をかける菜花。
菜花「お母さん、ただいま」
母は満面の笑みで写っている。
父「菜花が元気そうだから安心したよ。千颯くんはいい人なんだな」
菜花「うん、とてもよくしてくれるの。申し訳ないくらいだよ」
千颯のことを思い浮かべて胸の奥がぎゅっと締めつけられる菜花。
うつむく菜花を見て困惑の表情をする父。
父「菜花がつらい目にあっていないかと、ずっと考えて眠れなかったよ」
菜花「千颯くんはすごくやさしいよ。いつも、助けてくれるの」
父「ありがたいな。菜花をこんなに思ってくれる人がいるなんてな」
菜花「うん……」
目頭が熱くなり、思わずうつむく菜花。
笑顔で菜花に声をかける父。
父「今日は菜花の好きなものを作ってやるぞ 」
菜花「わあ、お父さんのごはん久しぶり!」
〇菜花の自宅・キッチン(夜)
ダイニングテーブルで夕食をとる菜花と父。
料理はビーフシチューとサラダとバゲッドにオムレツもある。
菜花「お父さんの作るシチューはほんとにおいしい」
父「よかった。ほら、野菜も食べるんだよ」
菜花「もうー。わたし、もう子どもじゃないよ」
父「ははっ、そうだったな」
照れくさそうに笑う父を見て微笑む菜花。
菜花はこれまでのことと、雛菊家と雪柳家について父に話す。
話を聞いていた父はだんだん神妙な面持ちになる。
父「そうか。やはり、母さんの言っていたとおりなんだな」
菜花「お母さんが?」
父「菜花、お前に話しておかなきゃいけないことがある」
あまりに真剣な表情の父に、思わず背筋を伸ばす菜花。
父「僕と母さんはかけおちだったんだ。母さんのお父さんに反対されてね」
どきりとして肩が震える菜花。
父は母とのなれそめを話す。
もともと父は雛菊家の使用人の子だったらしく、たまに屋敷に顔を覗かせていた。
幼い頃に母と出会い、こっそり文通などしていたようだ。
18の頃にふたたび再会し、母はそのとき父に自分を連れだしてほしいと訴えた。
そして、父はその願いを叶えたということだ。
父「宗源さんが怒るのも無理はないんだ。父さんは彼の娘を奪ったのだからね」
父の言葉にずきりと胸が痛む菜花。
父「だけど、母さんはあの家で苦しんでいた。だから、母さんを連れだしたことを僕は後悔していないよ」
菜花「うん」
菜花が微笑むと、父も安堵したように笑みを浮かべる。
父「宗源さんは菜花をどうにかして雛菊家に連れ戻そうとしている。それだけは阻止したい」
菜花「うん。わたしも二度と戻りたくない」
父「でも、無力な僕では菜花を守ることができない。だから、千颯くんの申し出は本当にありがたいと思った」
千颯のことを言われて思わず微笑む菜花。
父 「でも、これが状況をさらに複雑にしてしまったんだ」
ふたたび深刻な表情をする父に、菜花が口を挟む。
菜花「雪柳家との因縁のことだよね?」
驚き、そして冷静にうなずく父。
父「ああ、そうだ。詳しくは僕にはわからない。でも、千颯くんが菜花と接触したことを宗源さんはご存じのはずだ」
父「おそらく、菜花を奪いにくる」
それを聞いて身震いがする菜花。
父「しばらく学校は休んだほうがいい。外出も控えて、ここでゆっくりするといいよ」
父「千颯くんが雪柳家の結界を張ってくれたんだ。家の中にいれば宗源さんは菜花に近づけない」
静かにうなずく菜花。
菜花「うん、わかった」
〇菜花の自宅・寝室(夜)
ベッドの中で布団にくるまってスマホを眺める菜花。
精霊術協会や精霊師のことは検索してもあまりヒットしない。
それは精霊師の世界での機密事項となっているため。
菜花(人間の世界に生きているのに、まるで別世界に生きているみたい)
スマホを置いて布団に潜り込む菜花。
菜花(千颯くん、どうしてるかな? 今夜も星を見ているのかな?)
目を閉じると千颯とのキスがよみがえり、頬を赤らめる菜花。
菜花(よく考えたらどうしてあんなことができたんだろ?)
菜花(今さらだけど、恥ずかしいよ!)
頭まで布団をかぶる菜花。
赤面しながら、なかなか眠りにつけない。
同時に胸がぎゅっと痛んだ。
菜花(変だな、わたし……もう、寂しくてたまらない)
菜花(千颯くんに会いたい)
ふとよみがえる咲良の記憶。
咲良『あたしは千颯の婚約者だもの』
ぎゅっと目を閉じてうずくまる菜花。
すると、スマホにメッセージが届く。
慌てて確認すると千颯からだった。
千颯【もう寝た?】
菜花【寝てないよ】
返事をしたらすぐに電話がかかってきた。
思わず体を起こして電話に出る菜花。
菜花「千颯くん?」
千颯『ごめん。疲れてるだろ?』
菜花「ううん、大丈夫」
千颯『お父さんと話せた?』
菜花「うん。いろいろ聞いたよ。千颯くん、わたしのためにいろいろしてくれたんだね。ありがとう」
千颯『たいしたことじゃない』
少しの沈黙。
菜花(不思議。会いたいって思ったら電話がかかってくるなんて)
頬を赤らめる菜花。
千颯『ここ最近ずっと菜花がいたから、ちょっと家が広く感じて困る』
菜花「ふふっ、千颯くんの家は広いんだよ」
千颯『俺の実家はもっと広いよ。今度連れてってやるよ』
菜花「……そうだね」
胸がぎゅっと苦しくなり、複雑な表情をする菜花。
千颯『毎日、電話していい?』
どきりとする菜花。
咲良のことが頭によぎり、躊躇する。
千颯『いや、邪魔だったな』
菜花「邪魔じゃないよ。電話くれてうれしい!」
思わず素直な気持ちを口にする菜花。
赤面しながらおずおずと要望を口にする。
菜花「わたしも、千颯くんと毎日話したい」
千颯『わかった。いつでも連絡して。俺も連絡するから』
菜花「うん」
しばらくの沈黙のあと、千颯から遠慮がちな声がする。
千颯『じゃあ、また、明日』
菜花「うん。また明日ね」
千颯『おやすみ』
菜花「おやすみなさい」
電話を切ったあと、しばらく顔の火照りと鼓動の高鳴りが収まらずにいる菜花。
スマホの連絡先にある千颯の名前をしばらく眺める。
菜花(千颯くんの声、すごくドキドキする。それに、安心する)
スマホを抱きしめたまま眠りにつく菜花。
〇菜花の自宅・リビング(昼間)
掃除機をかけて、トイレと風呂掃除をする菜花。
写真立ての横にある花瓶の水を変えて母に手を合わせる菜花。
菜花(家に帰ってもう1週間かあ)
菜花(千颯くん、ちゃんと食べてるかな?)
菜花(ハルさんがいるから大丈夫だよね)
ちょうどそのとき、千颯から電話がかかってくる。
驚いて慌てて電話に出る菜花。
菜花「千颯くん、学校は?」
壁時計に目をやると午前11時を指している。
千颯『俺、いつも遅刻だよ。菜花がいるあいだはちゃんと行ってたけどさ』
菜花「朝ごはんも食べてないでしょ?」
千颯『あ、バレたか』
菜花「もうー! お昼はちゃんと食べないと」
千颯『菜花の弁当が食べたい』
突然そう言われて、戸惑いつつ笑みをこぼす菜花。
菜花「帰ったら作るよ」
千颯『じゃあ、それを楽しみに頑張ることにする』
頬を赤らめてふふっと笑う菜花。
そのとき、インターフォンが鳴り響く。
菜花「誰か来たみたい」
千颯『宅配でも頼んだ?』
菜花「ううん。頼んでないし、誰かが来る予定もないんだけど」
千颯『怪しい奴なら無視すれば?』
菜花「……うん」
インターフォンの画面で確認するとそこに映っていた人物に驚愕する菜花。
菜花「うそっ……おじいさん!?」