「ねぇ、木ノ瀬さん。…教科書、見せてくれない…?」


全力で『話しかけたくないオーラ』を醸し出していると、隣から声がかかる。

流石に圧には気づいているようで、少し怖気づいたような喋り方だ。

「…いいですよ」

自分でもわかるほど無愛想な返事で、机を繋げる。

めんどくさいなぁ。

これなら、ゲームしていたい。

現国なんて、どうせ寝ちゃうだけだし。

無線イヤホンを取り出して、音楽サイトを開く。

寝るぐらいなら音楽聞いていよう。

「…教科書自由に使っていいですよ」

それだけ告げると、私は自分の世界に入っていった。



キーンコーンカーンコーン…

チャイムで目が覚める。

どうやら、途中で寝てたみたいだ。

目の前には、落描きのある授業プリントと、耳から落ちたイヤホン。

そして、ぐちゃぐちゃになった髪。

「あ、木ノ瀬さん起きた〜」

「前髪ぐちゃぐちゃじゃん、笑える」

笑えるっていうんだったらその台詞笑いながら言ったらどう?

と言いかけたが、ギリギリのところでやめた。

「あ、木ノ瀬さん」

はぁ、今日は厄日かなにかなのかな。

もう全然いいこと起きないんだけど。

「なんですか」

「教科書、色々書き込んじゃったんだけど…大丈夫…?」

「全然いいですよ。どうせ使わないし」

「…ね、寝てたけど…?受験大丈夫なの…?」

「受験なんてどうでもいいですよ。別に落ちたって、高校卒業できてればいいです」

「…もしかしてだけど…失礼だけど…木ノ瀬さんって、勉強できないタイプ…?」

「余計なお世話です。黙っておいて下さい」

即答してしまった。

まあ、勉強できないのは事実だし…

嫌いだし…

というか今更だけど、この喋り方どこかで聞いたことあるな。

誰かに似てる気がするんだけど…

まぁ、気のせいか。