「まゆりちゃん……長かったよ、十年。ずっとこうしたかった」

 猫みたいに頬を擦り寄せられるとドキドキして落ち着かない。

「待って、大牙くん、いくら仕事終わりでも学校でこんなことするのは……!」

「俺が待てない性分だって知ってるでしょう?」

「それはそうだったけど……!」

 高校時代も他の男子生徒と私が会話してたら「まゆりちゃん、早く帰ろう!」って、よくせっついてこられて。
 もう絶対に離さないと言わんばかりにギュッと抱きしめられてしまったら、その場から動けなくなる。
男の人の力って本当に強い。

「俺、まゆりちゃんのことが、ずっとずっと大好きだったんだ。ちゃんと迎えに来れる男になったら絶対にお嫁さんになってもらおうと思って」

 しかもそんな口説き文句まで言われてしまえば、ここが学校だって忘れてしまいそうになる。
 自分でも最低だなと思うけれど、牛口先生と婚約の運びとなった時も、頭に浮かんで離れてくれなかった大牙くん。
 背後に立つ彼にぎゅっと強く抱きしめられる。
 なんだか相手の呼吸が心なしか速くて熱くて、全身が沸騰しそうなぐらいに熱くなった。

「まゆり」

 呼び捨てにされるとビクンと大きく身体が跳ね上がった。
 
「大牙くん……」

 このまま流されてしまいそう……

 その時――

「まゆりちゃんが俺みたいなやつじゃなくて、牛口先生みたいに面目な奴が好きなんだって知って、すごくショックだったんだ……」