夕方。
 大牙くんのスキンシップの激しさは海外留学の影響だと誤魔化すことに成功した後。
 普段は生徒指導室に使っている部屋で、新任教師である大牙君に色々と説明をおこなった。

「……ということで、これで全体概要の説明は終わりです。残り数か月の間は、私が担任をしているクラスの副担任をして学級運営を手伝ってもらうことになります。あとは専門分野の担当をしてもらうことになるのですが……」

 ちらりと書類を見る。
 専攻は公民科と書いてあるが……
 よくよく経歴を見れば、海外の有名大学の経営学部を卒業しておりMBA取得と書いてあるではないか。

(頭が良いとは思っていたけれど……なんだかクラクラしてきた。私に教えることってあるの?)

 せいぜい社会性を教えるとか、そういう話になりそうな気がしている。
 それにしたって良い大学を出ているのに、どうして高校の新任教師として現れたの?
 どうして?
 仕事中だから、そんなこと気にしたらダメなのに、なんだか無性に気になって仕方がない。

「なんで俺がわざわざ高校教師しているのかって気になってる顔してるね?」

 大牙くんが机の上で頬杖をつきながらニヤリと微笑んでくる。
 人たらしの笑顔を見て、心臓がドキンと跳ね上がってしまった。

「そんな、気になんてしてなくて……」

 ふいっと相手から視線を逸らすと、大牙くんが揶揄うような笑みを浮かべてくる。

「まゆりちゃん、昔と変わってないね。嘘つくと、すぐ目を逸らすんだから」

「……っ! 仕事なんだから、下の名前じゃなくて、ちゃんと名字で呼んで……!」

 ふと――
 彼の長い指が伸びてきて私の黒髪を掴んでくるではないか。しかも、それにそっと口づけてきた後、こちらを上目遣いで見てきた。

「そんなの……君に会いに来るために決まってるでしょう?」