ちょうど後ろから、校長先生と一緒に牛口先生が現れた。黒髪を撫でつけていて、黒いスーツを身に着けている。相変わらず人の良さそうな笑顔を浮かべていて、とても誠実そうな人。元カノさんが妊娠したんだし、破局するのも仕方がないのは分かっているけれど……
 なぜだか婚約が破棄されたことに対して、一歩的に私が悪者になっていて……それについて何か弁明などをするわけでもないからか保身に走っているように見えて、前ほど素敵な人だとは思えなくなってしまっていた。

「ああ、君が新任教師の龍ヶ崎大牙くんか」

 こちらに近づいてきた牛口先生が大牙くんの隣に立ち並んだ。
 ――元カレと元婚約者。
 二人が揃うと妙に胸が落ち着かない。
 そんな中、羊みたいなもこもこの髭の持ち主である羊谷校長先生が私の方を振り向いてきた。校長先生は悪い噂が立っている中でも、中立的な立場で話を聞いてくれる、とっても良い人なんだ。慣れない教師生活の時に、いつも私を見守ってくれてきた理解者でもある。
 優しいおじいちゃんみたいな校長先生が私に向かって話しかけてきた。

「兎羽先生、これから龍ヶ崎先生の指導を頼んだよ。おや? なんだか二人の距離が近い気がするけれど、もしかして知り合いだったりするのかい?」

 距離が近い!
 やっぱり距離が近すぎたかも!
 職場で何をやってるの、私は……!

「ええっと、校長、違うんです……!」

 動揺して大牙くんから離れようとしたんだけど――

「きゃっ……!」

 なぜだか視界がくるりと反転する。
 かと思えば真っ暗になって何も見えなくなってしまった。
 いったいぜんたい何が起こってるの……!?
 息苦しいなと思ってたら、ふいに解放される。
 もしかして――

「大牙くん……!?」

 校門の前の仕事中だというのに――私は大牙くんにぎゅっと抱きしめられていたのだ。
 あまりの衝撃に言葉を失うってこういうことを言うに違いない。
 そうして、昔と変わらず無邪気な調子で宣言した。


「もちろん、兎羽先生と俺とは、すっごく特別な同級生なんですよ」


 校舎から見ていた生徒たちがなぜだか絶叫して校舎が轟いたのは言うまでもない。