大牙くんの優しい声音に促されて、そっと瞼を持ち上げる。
「あ……」
目の前に差し出されていたのは――黒い小さな箱。
大牙くんがゆっくりと箱を開けてくれた。
中に入ってたのは――キラキラのダイヤの指輪。
「これは……?」
「俺としてはちゃんと告白したつもりだったけど、肝心なことを言えてなかったなって思って」
そうして――大牙くんがちょっとだけ目をきょろきょろした後、私のほうをまっすぐに見つめてきた。
「本当はもっと早くに言いたかったんだけど、十年かかってごめんね」
そうして――真摯な瞳に射抜かれると、その場から動けなくなる。
「今みたいにタダの教師同士で再会できたなら良かったけど……俺の本業は裏稼業の人間だから、色々と困らせることもあると思う。だけど、絶対に俺がまゆりちゃんのことを守るから――だから――」
そこにいたのはいつもの甘えん坊な調子の可愛らしい大牙くんじゃなくて、しっかりした大人の男性に成長した大牙くんの姿。
「どうか俺と結婚してください」
先生や生徒たちに囲まれても、ヤクザがたくさんいる場所でも堂々と振舞ってたのに、私の反応に一喜一憂する大牙くん。
どんな大牙くんでも大牙くんは大牙くんだよ。
勝手に涙が滲んでくるのは止められなかったけれど、もちろん私は笑顔で返した。
「もちろん!」
「ありがとう!」
大牙くんが太陽みたいに微笑んだかと思うと、私にぎゅっと抱きしめてきた。
「もう絶対に離さない――俺にはずっとずっと、まゆりちゃんだけだよ、愛してる」
まだ子どもだった頃から十年。
大人になった私たちの元に、十年ぶりの幸せな春が訪れようとしているのだった。


