そうして平和を取り戻した後、私は大牙くんと教師生活を送っていた。
卒業式の準備も進んできた頃のこと。
高校の卒業式はちょっとだけ桜が咲くにはまだ早い季節にある。
夕暮れ時、生徒が帰った教室の窓から外を覗くと、雪がまだチラついている。
そういわれると、高校三年生の頃に大牙くんにフラれた場所と時期もこのぐらいの頃だったっけ?
あの時は理由も分からなくて悲しかったけれど、今はちゃんと説明もしてもらえたし、大人になって迎えに戻ってきてくれたし、だんだんと当時の傷は癒えてきているように思う。
また付き合いだしてからは私が不安にならないように、めいいっぱい愛情表現をしてくれる大牙くん。わんこみたいだなって思うんだけど、それは昼間だけ。
問題は夜……! クリスマス・イブに結ばれた時はすごく優しいなと思ってたし、今も優しいは優しいんだけど、あの時は初めてだったからかなり手加減されていたんだって、数日後に気付いてしまった。毎晩激しすぎてワンコやニャンコを通りこして、もはや獣……!
って、学校でそんな卑猥なことを思い出しちゃいけない。とはいえ、仕事に影響が出ないように躾ないといけない……!?
そんなことを思いながら過ごしていたら、ガラリと教室の扉が開いたものだから、びくりと体が跳ね上がった。
「まゆ――じゃなくて、兎羽先生!」
「……龍ヶ崎先生!」
扉の向こうから現れたのは大牙くんだった。
公私混同はしたくないっていうのを伝えたら、律儀に約束を守ってくれていて、ちゃんと名字で呼ぶし、見つけた途端に抱き着いたりはしてこない。
とはいえ嬉しそうにはしてきてたんだけど……
あれ?
なんだか今日はしんみりした表情をしてないかな?
「あのさ、もう終業時間でしょう? 話があるんだ」
「え?」
フラれた日のことを思い出して、なんだか胸がドクンドクンって嫌な音を立ててきた。
あの日もこんな夕暮れ時だったなって。
『まゆりちゃん、これあげるから話を聞いて』
普段通り、私に飴を差し出してくるものだから、てっきり普段と同じ話なのかなって思ったら全然違う話でショックすぎたあの日。
「まゆりちゃん、これあげるから話を聞いて」
全く同じ所作で大牙くんがスーツのポケットから何かを差し出してくる。
あの日の再現になったら怖くて思わずぎゅっと瞼を瞑ってしまった。
どうしよう、十年間好きだったけど、やっぱり身体の相性が良くないから別れようとかそんな話だったら……?
怖くて目を開けられない。
そうしたら――
「ああ、昔の俺のせいだね。ごめんね、心配させて……目を開けて、まゆりちゃん」


