喧騒に包まれた街の中、キラキラのイルミネーションに包み込まれた夜道を大牙くんと二人で歩いた。色んな光が明滅して幻想的な空気が漂う。少しだけ雪がちらついていて、ひんやりしていたけれど、大牙くんに抱き寄せられているのもあって暖かかった。
しばらく歩いた後、巨大な噴水の前に辿り着いた。水飛沫がイルミネーションに照らされていて、まるで星屑のようにキラキラ煌めいている。
「まゆりちゃん」
見上げたら、眉尻が下がってて、ご主人様に怒られる前のワンコみたいな表情になってる。さっきまで周囲に見せてた威厳みたいなのはどこかに吹き飛んでしまってた。
「俺の正体に気付いても嫌いにならないかって聞いたけどさ、さすがにズルだったかなって。ごめんね、驚かせちゃってさ」
困ったように笑いかけてくる大牙くんの表情を見てると胸がきゅうっと疼く。
「元々ね、実家が裏の稼業の人間だったけど、俺としてはそんなの気にせずに過ごしてたんだ。だから、まゆりちゃんのことが好きだなって思ったら即告白したし、大人になったら結婚してもらうんだって単純に考えてたんだけど……」
大牙くんが寂しそうなまま続けた。
「ちょうど大学受験の頃だったかな、敵対してた組の幹部がまゆりちゃんを攫おうとしてたことが分かったんだ」
「え……!?」
突然自分の話になって衝撃を受けてしまう。
高校時代の私が誘拐されようとしてたなんて……
今の私じゃないのは分かってるのに、なんだか怖くて心臓がドクドクおかしな音を立ててしまった。ぎゅっと胸の前のブラウスを握りしめる。
「まゆりちゃんは一般人なのに巻き込もうとしてるのが全然意味が分からなかった。だけど、理由は『俺と付き合ってるから』だったんだ。親父から自分の力だけで守れるんなら付き合ったままで良いって言われたけど、結局ダメで……最終的には親父に色々頼み込んで阻止してもらったんだ。その時、俺って何の力もなくて非力だなって思ったんだ」
大牙くんが拳をぎゅっと握って悔しそうにしていた。
「それで自分なりに色々考えて、まゆりちゃんを守れる男になって戻ってきたつもりなんだけど……まゆりちゃんみたいに表舞台で働く真面目な教師と俺みたいな裏稼業の男じゃあ、さすがに対極すぎて……嫌だよね?」
困ったように笑う大牙くん。
十年間、私も理由が分からなくって悲しくて仕方がなかったけれど……
私を危険な世界に巻き込まないようにって裏で一生懸命頑張ってくれてたんだよね。
「大牙君がヤクザの若頭っていうのには正直驚いたし……ヤクザが怖いのも本音」
「うん」
私はしっかり大牙くんに向き合うと宣言した。
「だけど、この前も言った通り、私はどんな大牙くんでも好きだから」
すると――大牙くんが、ぱあっと太陽みたいな笑顔になった。
「まゆりちゃん! 俺もまゆりちゃんのことが大好き!! ずっとずっとまゆりちゃんだけが大好きだよ!」
「きゃっ……!」
いつもの無邪気で明るいワンコみたいな大牙くんに戻ったかなと思ったら、ぎゅうっと抱きしめられた。あまりにも強く抱きしめられるものだから、本当に私のことが好きなんだなって伝わってくる。それにしたって、このまま抱きしめられてたら、大牙くんの硬い胸板に潰されて窒息しそう……!
そんなことを思っていたら、ふっと解放された。
肩に手を置かれると、真摯な眼差しで見つめられる。
「これから先、何があってもまゆりちゃんのことを俺が絶対守ってみせるから――だから、一生俺のそばにいてほしい」
「ありがとう、大牙くん、もちろんだよ」
嬉しそうに微笑む大牙くん。
徐々にその綺麗な顔が近づいてくる。
そうして、そっと両想いになったばかりのキスをしたのだった。


