牛口先生が衝撃を受けている。
周囲のヤクザの組員たちもざわざわしていた。
え? え?
どういうこと?
思考が全く追いつかない。
大牙くんが龍ヶ崎組の若頭?
ちゃんとした仕事をしている人はヤクザにはなれない法律とかなかったかな?
でも若頭?
若頭って、つまりはヤクザで……
「ちゃんと後から自分の口で説明したかったから、まゆりちゃんを連れてきたくなかったんだけど、仕方がないな」
牛口先生に視線を戻した大牙君がニヤリと口の端を吊り上げる。
「形勢逆転だね?」
抱き寄せられている私の至近距離にある綺麗な顔。
笑顔を浮かべているはずなのに、目が全然笑ってない。
無慈悲な視線。
この間もあった。獰猛な獣みたいな、普段はしないような表情。
ゾクッと寒気が走る。
同時に、この場を支配している人物が、誰でもないこの人なのだと全身で理解してしまった。
その時――
「じゃじゃん! 大牙兄ちゃんの言った通り、ちゃんと撮ったよ!」
この場には似つかわしくない明るい女子の声が……!
「犬塚さん!」
まさかの黒ギャル犬塚さんの姿が扉の前にいた。
スマホを持ってたんだけど、牛口先生に向かってびしっと指を突きつける。
「今の生配信してたし! もう牛口先生は教師としてアウトだよ!」
犬塚さんがただの女子高生に見えなくなってきた。
牛口先生が愕然とした表情を浮かべていた。
「くそっ……!」
最後の悪あがきと言わんばかりに、牛口先生が大牙くん目掛けて突撃してくる。
だけど、私を抱えたままの大牙くんが、猫――いいや豹みたいにしなやかに躱す。
「ごめんね、まゆりちゃん」
そっと私を遠くにやると、もう一度駆けてきた牛口先生の片腕を掴む。
ぐるんと牛口先生の大きな体が回転した。
一本背負いだ――!
ドシャリと音が立って牛口先生が仰向けに倒れた。
強い。体術も得意なんだなって感心してる場合じゃない。
起き上がった牛口先生が壁側に逃げるところを、大牙くんがゆったりした足取りで近づく。相手を追い詰めたと同時に、そっとスーツの懐から黒い何かを取り出した。
――拳銃。
「ねえ、牛口先生、俺はね、俺の大事なものに手を出されさえしなければ他害はしないって決めてるんだ。だけど……」
大牙くんは牛口先生を見下ろしたかと思うと、銃口を相手の額に突き付ける。
牛口先生の顔が歪んだ。
「俺のものに手を出したら殺すから」
対して大牙くんの顔は愉悦に歪む。
まるで知らない色香の強い男の人みたいで、ゾクゾクした感覚がさっきから落ち着いてくれない。
大牙くんが無邪気な声音のまま言い放ち、引き金に指をかける。
「一足早いけど、メリークリスマス」
そうして、大きな銃声が響き渡ったのだった。


